
「介護は親孝行」と思っている、あるいは親戚や職場からそのような話が出た場合、その重圧で押しつぶされそうな気持ちになった経験はないでしょうか。
家族介護において最も重要なのは、適切な距離感を保ち、過度な負担を一人で抱え込まないことです。
介護が愛情の表れである一方で、それが義務感や周囲の期待によって『やらなくてはならないもの』になったとき、人は精神的にも肉体的にも大きな負担を感じることがあります。
今回は「介護と親孝行」というテーマについて、深く掘り下げて考えていきます。親のために尽くすことは尊いものですが、その過程で自分自身を犠牲にする必要はありません。家族介護のあり方について、一緒に考えてみましょう。
この記事でわかること
- 「介護で親孝行」をしなくてもいい理由
- 介護の距離感と自分の限界を知る
- 自分にとって良い親孝行の方法を知る
介護で親孝行しちゃいけない理由3つ
「介護は親孝行だ」と聞くと、立派に思えたり、育ててもらった恩返しと感じて、思わず納得してしまうことがあるかもしれません。ただ、親孝行のつもりで介護に専念しすぎると、負担が大きくなり、気づかないうちに限界となってしまう可能性があります。
現代の社会状況を踏まえると、介護を親孝行として位置づけることが必ずしも適切ではない理由が見えてきます。
介護で親孝行が難しい理由1:今と昔、支える側の違い
1970年代には、65歳以上の高齢者1人を約10人の現役世代が支えていましたが、現在では、約2人で1人の高齢者を支えるという大きな人口構造の変化が起きています。

出典:令和5年版高齢社会白書「高齢化の推移と将来推計」(内閣府)
50年ほど前は・・・
- 介護は家族がやるべきだ
- 介護が必要になったら同居する
- 施設に入居させるのは見捨てること
- 介護は育ててもらった恩返し
- 介護は親孝行だ
かつては、多くの家族が協力しながら介護を行っていたため、「介護は親孝行だ」という考え方のもとでも家族介護が成り立っていました。しかし、時代が変化するにつれて、介護を担う人の数が減り、状況は大きく変わりつつあります。
たとえば、一人っ子同士が結婚した場合、夫婦だけで4人の親の介護を担わなければならないケースも想定されます。こうした状況では、かつての介護のあり方をそのまま現代に当てはめるのは難しく、「介護は親孝行だ」という考え方だけでは支えきれないケースも増えています。少人数の家族で介護を行う負担は非常に大きく、家族の精神的・身体的な健康を守るためにも、柔軟な支援体制を考える必要があります。
介護で親孝行が難しい理由2:働く人が増えている
性別を問わず社会進出が進み、誰もが仕事と介護を両立する可能性が高まっています。ビジネスケアラー(仕事と介護の両立者)は、2030年に318万人まで増加すると予測されています。

出典:介護政策 「家族介護者・ビジネスケアラー・介護離職者の人数の推移」(経済産業省)
介護が原因で仕事に支障をきたす人や、退職を余儀なくされる人が増えてしまうことで、経済的損失は9兆円を超えると推計されています。実際に介護のために仕事を辞めざるを得ない「介護離職者」は年間約10万人で推移しています。
介護を担う子供世代は働いている人が多いため、「介護で親孝行」をするには時間も余裕もない状況なのです。
介護で親孝行が難しい理由3:家族介護は感情のコントロールが難しい

例えば親が認知症になり、次のような状況に直面したとしたら、あなたは耐えられるでしょうか。
- 何度も同じ質問を繰り返される
- 仕事で疲れているのに、夜中に起こされ「財布がない」と騒がれる
- 理解できない理由で怒りをぶつけられ、暴言を吐かれる
- 一人で外出し、道に迷って警察に保護されることを繰り返す
- トイレの場所が分からなくなり、衣類を汚してしまうことが増える
親に対して「なぜわからないの?」「なぜこんなことができないの?」といったきつい言葉をつい口にしてしまうことがあるかもしれません。しかし、それは決して親が嫌いになったわけではなく、親子という関係だからこそ感情を抑えるのが難しくなるのです。
親もまた、自尊心が傷ついてしまうことで、次第に子供に八つ当たりをするようになり、感情的な言い争いが起こりやすくなります。家族であれば遠慮する必要がない分、感情のコントロールが難しくなるのです。
今どきの介護は「親孝行」をこうする

支える人が少なくなっている現在、無理なく介護を続けるためには、「介護は親孝行だ」という考えにとらわれすぎず、負担を軽減することを意識することが大切です。
今の時代はこう考える介護の考え方をアップデート
約50年前に生まれた考え方も、時代の変化に合わせて見直し、今の社会に合った形へと進化させていくことが大切です。
- 介護は家族がやるべきだ → 介護はプロに任せる選択肢も視野に入れよう
- 介護が必要になったら同居する → 無理に同居せず、遠距離介護など柔軟な方法を考えよう
- 施設に入居させるのは見捨てること → 施設は介護のプロに任せられる安心できる選択肢
- 介護は育ててもらった恩返しだ → 恩返しは介護だけではなく、心のこもった愛情の形で伝えよう
- 介護は親孝行だ! → 親孝行の形は人それぞれ、愛情を大切にしながら考えよう
介護保険サービスなどを活用し、必要に応じてプロの力を借りることで、高齢者の生活の質が向上し、活動の幅が広がる可能性があります。
元気な姿を見せることも、親孝行のひとつ

自分自身の限界を把握することも大切です。どこまで介護が可能なのか、どのくらいの時間を確保できるのかを事前に明確にしておくと、無理なく介護に携わることができるでしょう。
介護には、どうしても家族が担うべき役割があります。例えば、一緒に通院して医師の話を聞いたり、介護保険サービスの手続きや相談を行ったりすることは、家族が関わることが求められる場面です。高齢になると、急な入院や転倒などの予期せぬトラブルも起こり得ます。こうした事態を想定しながら、「自分自身が余裕を持って介護をするためにはどうすれば良いか」を考えておくことが大切です。
介護で疲弊するのではなく、「元気に頑張っているよ!」という姿を見せることも、今の時代の親孝行のひとつです。時折一緒に食事を楽しんだり、散歩に出かけたりと、共有する時間を大切にすることも、心のつながりを深める良い方法です。
また、介護をプロの力を借りながら進めることで、時間や気持ちに余裕を持てるようになり、その結果として、より良い親子関係を築くことができます。介護の方法は家庭によって異なりますが、支える側も無理をしすぎず、持続可能な形を考えることが重要です。
最後に
近年、「介護は親孝行」という考え方が必ずしも当てはまらなくなってきています。親の人生と自分の人生は別であることを認識し、介護の負担を適切な範囲に抑えることが大切です。
介護は無理のない範囲で行い、難しい部分は介護保険サービスなどを活用することで、バランスを取りながら進めていきましょう。
自分自身の生活を充実させることが、結果として親へのより良い関わり方につながります。無理なく支え合うことこそが、本当の親孝行といえるでしょう。