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「介護の味方!時間栄養学の基本と実践方法|食事の『いつ』が健康を変える理由」

高齢な親の食事に気を配っているのに、どうも体調がすぐれない...。そんなふうに感じたことはありませんか? 実は、どんな食材を選ぶかという「栄養バランス」と同じくらい、いつ食べるかという「タイミング」が、高齢者の健康に大きく影響することがわかってきました。

私たちの体には、ほぼ24時間周期で働く体内時計が備わっています。ホルモン分泌や体温調節など、体の機能のほとんどは、この体内時計によって厳密にコントロールされています。食事の「時間」や「内容」は、この体内時計をリセットするための重要な手がかりとなります。

「時間栄養学」とは、この体内時計のリズムに合わせて、何をいつ食べるかを調整することで、健康を維持しようとする新しい考え方です。高齢になると体内時計が弱まり、生活リズムが乱れやすくなるため、この時間栄養学の考え方を取り入れることが、健康維持に役立ちます。

この記事では、在宅介護者が時間栄養学を無理なく取り入れるヒントをお伝えします。

時間栄養学とは?わかりやすい具体例で解説

時間栄養学は、特別な食材や複雑な調理法を必要としません。大切なのは、食事の時間を意識することです。たとえば、同じものを食べるにしても、体内時計の働きに合わせてタイミングを変えるだけで、その効果が大きく変わります。

朝と夜で変わる食べ物の効果

タンパク質は筋肉を作る上で欠かせませんが、効率よく摂る時間帯は朝です。朝は体が活動を始める時間帯で、筋肉を作る働きが最も活発になります。このタイミングで卵や魚などのタンパク質を多く含む食材を摂ると、効率よく筋肉の材料として使われます。

一方、納豆は朝食の定番ですが、実は夜に食べる方が良いとされる栄養素もあります。納豆に含まれる「ナットウキナーゼ」という酵素には、血栓を溶かす働きがあり、この血栓は睡眠中にできやすいことがわかっています。また、納豆の原料である大豆に含まれるアミノ酸は、睡眠ホルモンの材料にもなります。このように、食材が持つ特性に応じて、最も効果的な時間帯は異なります。

時間栄養学は「何を食べるか」だけでなく、「いつ、どれだけ、どのように食べるか」という3つの要素を組み合わせることで、栄養の吸収や代謝を最大限に高めることを目指しています。

高齢者の介護に時間栄養学を取り入れる3つのメリット

では、具体的に「時間栄養学」が日々の介護にどのような良い影響をもたらすのでしょうか。食事の時間を意識することで、介護を受ける方にも、そして介護をする方にも嬉しい効果が生まれます。

メリット1

  • 生活リズムを整え、認知機能を維持する

規則正しい食事は、体内時計を正常に保ち、日中の活動性を高めることにつながります。これにより、認知機能の維持にも良い影響を与えます。

メリット2

  • 効率よく栄養を摂り、健康リスクを予防する

加齢に伴い、体は様々な変化に直面します。時間栄養学は、これらの変化による効率の低下を補い、サルコペニアや低栄養といった健康リスクを予防する有効な手段です。

サルコペニアとは

加齢に伴い筋肉量や筋力が低下していく状態のことです。転倒や骨折のリスクが高まるだけでなく、活動量の低下から様々な病気を引き起こす要因にもなります。時間栄養学に基づいた食事と適切な運動を組み合わせることで、サルコペニアの予防・改善が期待できます。

メリット3

  • 介護者の負担を軽減する

食事のリズムが整うと、生活全体のリズムも安定します。これにより、介護のスケジュールが立てやすくなり、介護者の精神的・身体的な負担の軽減にもつながります。

今日からできる!時間栄養学3つの実践ヒント

時間栄養学は、難しいものではありません。いつもの食事のタイミングを少し工夫するだけで、大きな変化が期待できます。

1. 朝食を「一日で一番豪華な食事」にする

    朝食は、体内時計をリセットし、体の活動スイッチをオンにする重要な役割があります。特に、高齢者のサルコペニア予防のためには、朝食の質と量が非常に重要です。

    私たちの体は、朝の時間帯に最も効率よく筋肉を作り出すことができます。これは、筋肉合成を促すアミノ酸やインスリンの働きが、午前中に最も活発になるためです。この時間帯に肉、魚、卵、大豆製品などの質の高いタンパク質をしっかりと摂ることで、筋肉量の維持・増加を効率的にサポートできます。

    2. 夕食は早めに、軽めに済ませる

      夕食が遅い時間になると、体に脂肪を溜め込みやすくなります。これは、夜間に脂肪をため込む働きを持つ遺伝子が活性化しやすくなるためです。また、夜間はインスリンの感受性が低くなるため、食後高血糖が持続しやすくなります。

      夕食を就寝時間の3時間前までに済ませることで、消化活動が落ち着き、体が休息モードに入りやすくなります。消化の良い温かいスープや野菜を中心にしたメニューは、体への負担が少なく、良質な睡眠にもつながります。

      3. 間食を「第二の朝食」として活用する

      食事量が減りがちな高齢者の場合、3食だけでは栄養だけでなくエネルギー(カロリー)も不足することがあります。このような場合、間食を単なるおやつではなく、不足する栄養とエネルギーを補うための「第二の食事」として活用しましょう。

      特に、午前中や午後の早い時間帯に間食を摂ることで、昼食や夕食で足りなかった栄養素を効率よく補給できます。おにぎりやサンドイッチなどの炭水化物、ヨーグルトやチーズなどの乳製品、果物やナッツなどは、手軽に栄養をプラスできる優れた選択肢です。栄養バランスを考慮した間食は、一日の総エネルギーと栄養素を確保し、低栄養状態を防ぐ上で非常に効果的です。

      低栄養とは

      低栄養とは、体に必要な栄養素が不足している状態を指します。食事量が減りがちな高齢者は、栄養バランスが偏ったり、必要なカロリーやタンパク質が摂れなかったりすることで、低栄養に陥りやすくなります。この状態は、筋肉の衰え(サルコペニア)や免疫力の低下など、様々な健康リスクを高めるため、日々の食事管理が非常に重要になります。

      睡眠・運動リズムと食事のタイミングを連携

      食事は、ただ栄養を摂るだけでなく、睡眠や運動といった体のリズムを整える上でも重要な役割を果たします。これらのリズムをうまく連携させることで、健康効果をさらに高めることができます。

      1. 運動後の食事で効率的に筋力維持

      運動は、サルコペニアの予防に欠かせません。筋肉を効率よく維持するためには、運動した直後にタンパク質を摂ることが大切です。このタイミングでタンパク質を摂取すると、筋肉の合成が最大限に促されます。

      この工夫は、筋力と活動能力を維持し、転倒予防や自立した生活を送る助けになります。

      具体的な方法

      散歩や簡単な体操をした後、牛乳やヨーグルト、プロテイン飲料などをすぐに摂る習慣をつけましょう。

        2. 夕食の工夫で良質な睡眠を

        良質な睡眠は、健康の土台です。夕食の時間を工夫することで、睡眠の質を大きく改善できます。夕食が遅すぎると、消化活動が活発になり、体温が下がりにくくなります。これにより、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりする原因になります。

        ぐっすり眠ることで、日中のだるさや疲労感が軽減され、気分もすっきりします。認知機能の維持にも良い影響を与えます。

        具体的な方法: 夕食は就寝時間の3時間前までに済ませるように心がけましょう。もし遅くなってしまった場合は、消化の良い温かいスープやおかゆなど、胃に負担の少ないものを選んでください。

        まとめ

        時間栄養学は、特別な食材を用意する必要はありません。大切なのは、食事の時間を意識することです。規則正しい食事のリズムは、介護が必要な方の心身の健康を支えるだけでなく、食事そのものをより楽しむことにもつながります。

        今日からできる小さな工夫で、より良い介護生活を目指してみませんか?

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