排便のケア 水分のケア 認知症ケア

認知症の「嘘」や「作り話」への対処法|信頼関係を守る対話の極意

2026年2月28日

認知症の方の「嘘」や「作り話」(作話)に直面し、戸惑いや苛立ちを感じることはありませんか?

「そんなことはなかったはずだ」「さっき言ったことと違う」——。真実と異なる発言を目の前にすると、つい「それは違いますよ」と訂正したくなります。しかし、その一言が、認知症の方との大切な信頼関係に亀裂を入れてしまう原因になりかねません。

この記事では、認知症の方の「作り話(作話)」に対し、まず水分補給や排泄ケアで身体の安定を図るアプローチを解説します。相手との関係を維持するための具体的な対話テクニックと、その背景にある心理を、元ケアマネジャーの視点からご紹介します。

その言動は、悪意ではなく「混乱からくる行動」

まず、心に留めておいていただきたい最も重要なことがあります。

認知症の方が話す、事実と異なる内容は、「意図的な嘘」ではなく、多くの場合、本人の記憶や状況の認識が困難になったことにより、自分自身を防御するために無意識にとっている「取り繕いの行動」なのです。

「作り話」の裏にある心理と行動

  • 「分からない」という強い恐怖

単なる物忘れではなく、今、目の前で起きていることの意味(場所、時間、人間関係)が理解できなくなるため、本人は常に深い霧の中にいるような、強い不安と恐怖を感じています。

デイサービスにいても「ここがどこで、何をする場所か」が分からないと、そこは「安心できる居場所」ではなく「見知らぬ怖い場所」に変わります。

  • 混乱を埋めるための「意味づけ」

人間は「分からない状況」に耐えられません。そのため、ご本人は今の混乱を何とか説明しようと、無意識に自分なりの理由を作り出します。

不安や混乱から逃れ、自分を納得させるための必死のつじつま合わせ。
これこそが、事実と異なる「作り話(作話)」の正体です。

家族を騙そうとしているのではなく、恐怖から自分を守ろうとしている。この背景を理解することが、苛立ちを受容へと変え、冷静な対応への第一歩となります。

見落とされがちな身体のSOS:水分不足と便秘の影響

認知症の方の不穏な言動や作話が、実は身体の不調から来ているケースは少なくありません。特に見落とされがちなのが、「水分不足」と「便秘」です。

1. 水分不足が混乱を招くメカニズム

高齢者は喉の渇きを感じにくくなるため、知らないうちに脱水状態になりがちです。

軽度な脱水であっても、脳への血流が一時的に悪化し、混乱、不安、せん妄、そして認知症症状の一時的な悪化を引き起こします。これが作り話(作話)や興奮につながることがあります。

  • 具体的な対応
  • 対話の前に、まずはコップ1杯の水やお茶をゆっくり飲んでいただきましょう。
  • 「それは違います」と否定する代わりに、「少しお喉が渇きませんか?お茶を淹れましょうか」と、まずは身体のケアから入る姿勢が大切です。
特に夏場は注意です!

2. 便秘が不快感を増幅させる

便秘による腹部の不快感や痛みは、認知症の方にとって「原因の分からない強いストレス」となります。この不快感が、イライラ、多動、そして「誰かが私の物を盗った」「帰らなくてはならない」といった不安や不穏な言動として表面化することがあります。

  • 具体的な対応
  • 排便の状況を記録し(排便が自立の方は把握できる範囲で)、便秘であれば解消できるようなケアを行います。
  • 「調子が悪いのは便秘のせいかもしれない」と身体的な不快を取り除くことが、結果的に心の安定につながります。
認知症と排便の関係をスピード理解

まずは一杯。対話はその「数分後」から

不穏な言動や作り話に対し、すぐに言葉で返そうとすると衝突が生まれます。まずは「お喉が渇きましたね」と1杯の飲み物を差し出し、物理的な「間(ま)」を作りましょう。

  • 水分を用意する時間が「物理的な間(ま)」になる

飲み物を用意するためにその場を離れる数分間が、介護者自身の感情の高ぶりを鎮め、冷静さを取り戻すための大切なクールダウンの時間になります。

  • 脳の潤いを待つ

水分を摂ってから5分〜10分ほど待つうちに、脱水による一時的な混乱が和らぎ、言葉が届きやすい土壌が整います。

  • 飲み終わった時が対話のスタート

喉が潤い、一息ついたタイミングこそが、本質的な対話を始める合図です。

身体の不調のサインを見逃さない
不穏な言動や作り話(作話)が見られたとき、まずは「体調に変化はないか?」と立ち止まることが、冷静な対応の第一歩です。対話による心のケアは、身体の不快感が解消されてこそ効果を発揮します。水分の補給や排泄の確認を優先しましょう。

関係性を崩さないための3つの基本姿勢

身体的なケアと同時に、心のケアを行うことが重要です。認知症の方との対話において、真実を追及せずに、良好な関係性を維持するための心の持ち方と行動の原則は以下の3点です。

1. 「真実の追及」を目的としない

最も避けるべきは、事実を正して認知症の方に「間違いを認めさせる」ことです。これは、ご本人の尊厳を傷つけ、不安や混乱、そしてあなたへの不信感を募らせるだけです。

  • NG対応例:「お母さん、そんなこと言ってないよ。昨日私と一緒に病院に行ったじゃない」
  • 心がけ: 今ここで、相手が感じている「気持ち」を受け止めることを最優先にします。

2. 「否定」や「正論」を押し付けない

認知症の方の言葉を否定することは、「あなたの言っていることは間違っている」というメッセージを伝えることになります。これは、ご本人の存在そのものを否定されているかのような感覚を与えかねません。

3. 「感情のコントロール」を意識する

認知症の方の作り話(作話)に感情的に反応してしまうと、それが相手に伝わり、さらに強い混乱や興奮を引き起こします。あなたの冷静さが、心理的な摩擦を軽減する鍵になります。深呼吸をし、「これは混乱から逃れるための作り話である」とご自身に言い聞かせて、一呼吸置いてから対応するようにしましょう。

信頼を守る「対話のテクニック」

では、実際にどのようなフレーズやアプローチで対応すれば、衝突を避けられるのでしょうか。

① 否定せず、感情に「共感」する

話の内容の真偽ではなく、その話をしているときの相手の気持ちに焦点を当てて返答します。

作り話(作話)の例具体的な対応心理的な効果
「私の鞄を誰かが盗んだ!」(実際は手元にある)「あら、大変でしたね。何か大切なものが入っていましたか?不安でしたね。」相手の「不安」という感情を共有し、落ち着きを取り戻す手助けになります。
「これから子どもが迎えに来るの」(実際は予定なし)「お会いできるのが楽しみですね。どんなお話をされるんでしょうか。」「会いたい」という期待や寂しさに寄り添い、否定しないことで信頼感を守ります。

② 関心の対象を切り替える

真実の追及を避け、興味の矛先を別の話題や行動に移して、作り話のループから自然に離脱します。

作話の例具体的な対応心理的な効果
「もうお昼ご飯は食べた」(実際はまだ)「そうでしたか!じゃあ、お口直しに温かいお茶でも飲みませんか?淹れてきますね。」食事への固執から別の行動(お茶)へ誘導し、注意をそらします。
「私はここの家ではない」(実際は自宅)「そうなんですね。ところで、そのお花がとても綺麗ですね。なんていうお花ですか?」混乱した現状認識から、目の前の具体的な(安全な)現実へ目を向けさせます。

③ 「YES-BUT」ではなく「YES-AND」で受け止める

相手の言葉を一度受け止めた(YES)後、否定(BUT)ではなく、別の安全な現実(AND)を付け加えて返します

  • 作り話:「私はここに閉じ込められている」
  • NG(BUT): 「そんなことないでしょう。ここはあなたのお家ですよ」
  • 推奨(AND): 「それは不安ですね。お茶でも飲みながら、どうすればいいか一緒にゆっくり考えましょう。」

④ 「回想法」の要素を取り入れる

作話の中に、過去の楽しかった経験や、実現したかった願望が隠れている場合があります。その感情や願いを受け止め、過去の話として展開することで、満足感につながることがあります。

  • 作り話:「私は東京に帰らなくてはならない」(実際は東京出身ではない)
  • 対応例:「東京には、どんな思い出がありますか?コーヒーでも飲みながら聞かせてください」

感情に寄り添い、対応できる「着地点」を見つける

相手の訴えに対し、一緒に行動することで安心感につながるケースもあります。しかし、すべてに応えようとすると介護者側が力尽きてしまいます。「本人の願い」と「介護者が応じられる範囲」をどうすり合わせるか、その視点を持ちましょう。

例として、「自宅にいるのに『家に帰る』と訴える(帰宅願望)」場面について考えてみましょう。

  • 感情には100%同意する

「ここは自分の家じゃない!」という訴えには、「そうですよね、住み慣れたお家が一番ですよね」と、今の場所が落ち着かない不安な気持ちを否定せず受け止めます。

  • 「行動」は可能な範囲で付き合う

玄関先まで一緒に歩いて外の空気を吸うだけで、本人の気が済んで落ち着くこともあります。

  • 「超えられない一線」は代替案で守る

外出が危険、あるいは応じられない場合は、「暗いのでお茶を飲んで明るくなるのを待ちませんか?」と、安全な室内での行動(水分補給など)へ誘導します。

💡元ケアマネジャーからのヒント

夜間の対応が限界に近いと感じる場合は、一人で抱え込まず環境を整えるタイミングです。

  • ショートステイ
    介護者が休息をとる時間を確保します。
  • 小規模多機能型居宅介護: 「通い・泊まり・訪問」を柔軟に組み合わせられます。

こうした不安は、担当のケアマネジャーに早めに相談し、無理のない組み合わせを考えていきましょう。

まとめ:自分自身を労ることも忘れないで

認知症の方の作り話(作話)への対応は、根気と優しさが求められ、精神的な負担が大きいものです。
大切なのは、完璧な対応を目指さないことです。時にはイライラしたり、疲れてしまったりしても、それはごく自然なことです。

対応に困ったときは、

  • 身体的な不調(水分、排泄など)をまずチェックする
  • 否定しない
  • 真実を追及しない
  • 相手の感情(不安、寂しさなど)を受け止める

この4点を思い出し、まずはあなた自身が深呼吸をして、心のゆとりを保つことを最優先にしてください。

こちらも注目!

-排便のケア, 水分のケア, 認知症ケア
-, ,