気持ちのバランス

親の介護はしないという選択肢|罪悪感と古い価値観を乗り越える方法

2024年7月7日

「親の介護は、子どもがするもの」。そう言われると、どこか重い義務のように感じるかもしれません。しかし、介護をめぐる状況は大きく変わりました。ケアマネジャーとして10年以上の経験から、家庭円満に介護を続ける家族は決して多くないと感じています。介護は時間的、金銭的な負担を伴い、介護者の生活に影響を及ぼすからです。

この記事では、介護に対する不安やストレスを抱える方に向けて、気持ちの負担を軽くする考え方と、介護の選択肢についてお伝えします。

この記事でわかること

  • 介護を苦しめているかもしれない、無意識の考え方
  • 介護中の揺れる気持ちとの向き合い方
  • 「介護をしない」という選択肢を考えるヒント

「親の介護は義務」という考え方の重荷

  • 親の介護は親孝行
  • 介護は育ててもらった恩返し
  • 子どもだから当たり前

このような考え方は、一見美しく聞こえますが、私たちを縛りつけ、追い詰める原因となることがあります。また、「施設に入れるなんてかわいそう」「長男だから、お嫁さんだから介護は当然」といった言葉も、知らず知らずのうちに心の負担を増していくでしょう。

ケース1

キャリアを諦めたAさんの後悔
共働きでキャリアを築いていたAさんが、夫の母親の介護をきっかけに退職した事例です。夫や親戚から「嫁が介護をするのが当たり前」という古い価値観を押し付けられ、Aさんは慣れない介護を一人で担うことになりました。

仕事が好きで、キャリアを積み重ねたかったAさんは、介護と仕事の両立が困難になり、やむなく退職を決意。次第に笑顔を失い、後悔や孤立感を抱える日々が続きました。

もちろん、親を大切に思う気持ちは尊いものです。しかし、その気持ちが自分を犠牲にするものであってはいけません。介護する人が心身ともに健康でいられることが、良い介護の前提です。もし、これらの言葉に縛られていると感じたら、その考え方を見直すときかもしれません。

 時代が求める、新しい介護のカタチ

かつては「親の介護は子どもの義務」という考え方が一般的でした。しかし、日本の人口構造は大きく変化しています。

1970年頃は高齢者1人を約10人で支えていましたが、2020年には約2人で支える時代になりました 。

かつての「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という意識が薄れ、女性も社会で活躍する時代となり、子の妻が義理の父母の介護を当然のように担う時代ではなくなりました 。

親世代も、「子どもに頼るのが当然」という考えを改め、早い段階から老後の計画を立てる必要があります。一人っ子同士が結婚すれば、将来的に4人の親の介護を担う可能性もあり、子が担う介護負担は確実に大きくなっています。介護の形も多様性が求められる時代となっています 。

「自分主体」で考える介護

介護される側も、介護する側も不幸になる介護は誰も望んでいません。親も子も良い関係を保ちながら介護を続けるためには、「自分主体」で介護を考えることが大切です。

介護の「許容範囲」を明確にする

「どこまで介護に時間を割けるのか」「何が許容範囲なのか」を事前に考えておきましょう。仕事や自分の家族、趣味など、自分の生活の中に介護を「当てはめる」ように考えるのです。介護に自分を合わせるのではなく、自分に介護を合わせるという視点を持つことで、介護が自分の人生の一部として無理なく組み込めます。

揺れる気持ちと上手に付き合う

介護の限界を決めても、「罪悪感」や「後ろめたさ」を感じることがあるかもしれません。周囲からの厳しい言葉に心が揺れることもあるでしょう。そのようなときは、「自分にできること」を何度も見直してみてください。

親を思う気持ちがあるからこそ、気持ちが揺れ動くのは当然の感情です。大切なのは、その感情を受け入れ、無理のない範囲で介護を調整していくことです。

ケース2

遠距離介護と仕事、子育ての両立に悩むBさんのケース
高校生と中学生の子供を育てながら、遠方で暮らす父親の介護を続けているBさん。数日前に、母親が転倒して腰痛が悪化し、Bさんは仕事を2週間休み、実家に戻って介護をすることになりました。

親との同居も考えましたが、仕事や子どもたちのことを考えると、現状では難しいと判断しています。

Bさんは、ケアマネジャーに自分の介護に割ける時間には限りがあることを伝え、介護保険制度を利用しながら、今の介護体制を続けることを選択しました。

「介護をしない」という選択肢

親が元気なうちから、「自分は介護しない。プロに任せる」と決めている子どもも増えています 。これは親を突き放すのではなく、「プロの力を借りて、より良い関係を保ちながら過ごす」という賢明な選択です 。

  • 親との大切な時間を優先する

介護をプロに任せれば、家族は介護の負担から解放され、親との時間を心から楽しむことができます 。たとえば、帰省した際には、介護に時間を費やすのではなく、一緒に食事や会話を楽しむ時間にあててみましょう 。

ケース3

プロに任せることで関係が深まったCさんのケース
介護はすべてプロに任せるというスタンスで、遠距離介護を続けているCさん。年に3回ほど帰省しては、兄弟姉妹で両親を囲んで飲み会を開くのを恒例にしています。

両親もこの時間をとても楽しみにしており、家族の絆を深める大切な時間となっています。

  • 心を守るための決断

長い歴史の中で親と良好な関係を築けなかった場合、無理に介護を続けると「介護うつ」や精神的な不調に陥ることがあります 。そのような場合は、「直接的な介護はしない」と決め、専門職にすべてを任せることも、自分自身を守るための重要な選択です 。

介護保険サービスや民間サービス、介護施設の種類も多様化し、子どもが直接介護しなくても、十分なケアを受けられる時代です 。揺れる気持ちと上手に付き合う

最後に

家族の形が多様化しているように、介護にも決まった関わり方はありません。大切なのは、「介護はこうあるべき」という古い考え方を手放し、今の時代に合った新しい感覚にアップデートすることです。

悩みのない介護はなく、苦労のない介護もありません。自分自身の揺れる気持ちに向き合い、介護の専門職と相談しながら、無理のない範囲で親と関わっていきましょう。

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