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父親の介護を息子がするとき|知っておきたいメリットと注意点

父親の介護を息子が担う場合、身体的なサポートで頼りになる場面がある一方で、これまで表に出しにくかった感情や、昔ながらの親子関係が影響し、精神的な距離感の取り方に悩むこともあります。

ここでは、息子が父親を介護するときの一般的なメリットや、心に留めておきたい注意点について、詳しく解説します。

【はじめに】
この記事では、息子さんが父親の介護を担う際の一般的な傾向や考えられる点に触れています。親子関係や個々の状況は様々ですので、全てに当てはまるわけではありません。ご自身の状況に合わせて、情報の一つとしてお役立ていただければ幸いです。

息子が父親を介護するメリット

親子であるからこそ、言葉にしなくても通じる思いやりや、お互いの理解が自然と生まれやすいものです。息子が介護に関わる場合、体格的な面で頼りになる場面があるほか、父親にとって同性からのケアが安心感につながることもあるでしょう。また、共通の趣味や昔の思い出を語り合うことで、介護の時間が単なる支援ではなく、互いにとって心地よい時間へと変わる可能性もあります。

身体的なサポートがしやすい場合がある

息子が父親の介護を行う際、体格的な面でサポートしやすい場面があることは、一つの特徴と言えるでしょう。※例えば、ベッドからの起き上がりや車椅子への移乗、入浴の介助など、ある程度の力が必要となる場面では、息子の力が助けとなることも多いかもしれません。

ただし、力に頼りすぎた介護は、父親の身体に予期せぬ負担をかけるだけでなく、介護する息子自身の腰や膝を痛める原因にもなり得ます。身体を痛めてしまうと、長期にわたる介護がより大きな負担となりやすいため、正しい介護技術を身につけることが重要です。

同性であることによる心理的な安心感

排泄や入浴の介助といったデリケートなケアは、介護を受ける側にとって大きな心理的負担となることがあります。父親にとって介護に携わる息子が同性である場合、ケアに対する精神的な抵抗感が和らぐ傾向にあります。

特に高齢の男性の中には、「自分の弱った姿を他人に見せたくない」「人に世話をされるのは恥ずかしい」といった感情を抱く方も少なくありません。そのような場合、同性である息子からの介助であれば、父親が比較的安心してケアを受け入れやすくなります。これは、父親のプライドを尊重し、尊厳を守る上で大切な視点の一つです。ただし、これは全ての父子関係に当てはまるわけではなく、親子関係のあり方や個人の性格によって感じ方は異なります。

共通の関心事を通じたコミュニケーション

もし父親と息子との間に共通の趣味や関心事があれば、介護の合間にそうした話題を共有することで、自然な会話が生まれ、父親の精神的な安定につながることがあります。特に、父と息子という関係性だからこそ、気兼ねなく一緒に楽しめる活動が見つかるかもしれません。

例えば、一緒に映画を観たり、スポーツ中継を楽しんだりすることは、特別な準備がなくても気軽に時間を共有できます。※同じチームを応援したり、昔好きだった選手や作品について語り合ったりする中で、会話が弾むきっかけになるかもしれません。また、将棋や囲碁、釣りといった趣味は、言葉を多く交わさなくても静かに同じ時間を共有し、穏やかな一体感を感じられるでしょう。

こうした共通の楽しみは、介護を「世話をする・される」という一方的な関係から、仲間としての交流を深める機会へと変えてくれる可能性があります。

息子が父親を介護する際の注意点

父親の介護を担うことで、これまでの親子のあり方が変化し、新たな課題に直面することもあります。親子だからこそ、お互いに抱いている無意識の価値観や、これまでの距離感が、介護をきっかけに揺らぐことも少なくありません。

また、介護の負担は身体的なものだけに限りません。精神的な影響や、周囲の期待、環境の変化によって、息子自身が悩みを抱え込むこともあります。

「男だから」「長男だから」という無言のプレッシャーと孤立のリスク

「男なのだからしっかりしなくては」「長男が親の面倒を見るのは当然のことだ」といった価値観は、社会の中に今もなお存在しています。介護の場面では、こうした期待が特に息子に向けられやすく、本人も知らず知らずのうちにその役割意識を強く持ちすぎてしまうことがあります。

父親の介護をする息子の中には、「弱音を吐くべきではない」「自分が全てを責任を持ってやらなければならない」といった思い込みから、精神的な負担を一人で抱え込んでしまう方もいます。仕事と介護の両立に苦しみながらも、周囲に相談できずに孤立感を深めてしまうケースも少なくありません。

父親との関係性が変化することへの戸惑い

息子が成長するにつれて、父親との間には「男同士」特有の遠慮や照れくささが生まれ、日常的な会話が減っていく、という話はよく聞かれます。しかし、父親の介護が始まると、食事や排泄、入浴の介助など、これまで踏み込むことのなかった父親の非常にプライベートな領域に深く関わることになります。

これにより、これまでの親子関係とは異なる、より密接でデリケートな関わり方が求められるようになり、息子として戸惑いや気まずさを感じることもあるでしょう。この変化を自然に受け入れるには時間がかかることもあります。

仕事と介護の両立が抱える課題

働き盛りの年代で父親の介護に直面することも珍しくなく、仕事との両立は大きな課題となります。介護のために時間を確保しようと離職を選択した場合、収入面の不安だけでなく、キャリアの継続が難しくなる可能性も考慮しなければなりません。

また、仕事の繁忙期と介護の負担が重なると、知らず知らずのうちに精神的に追い詰められ、父親に対して無意識に冷たい態度をとってしまったり、言葉遣いが荒くなったりしてしまうこともあるかもしれません。こうした状況が続くと、親子関係が悪化するだけでなく、介護者自身が強いストレスを抱え込み、結果として不適切な関わりに繋がってしまう可能性も否定できません。そうなる前に、早めに周囲に相談し、負担を軽減する手立てを講じることが重要です。

父子間の感情表現の難しさと介護への影響

一般的に、父と息子の間では、言葉で直接的に感情を伝え合うよりも、態度や行動で気持ちを示すことが多いと言われることがあります。そのため、介護の場面で父親が本当に何を望んでいるのか、何を感じているのかを正確に汲み取ることが難しく、対応にズレが生じてしまうことも考えられます。

また、息子自身も、介護に関する悩みやストレスを誰かに打ち明けることに慣れていなかったり、「余計な心配をかけたくない」と遠慮しすぎたりすることで、一人で抱え込みやすくなる傾向が見られることもあります。

これを防ぐためには、日頃から意識的に会話の機会を増やし、介護以外の話題も交えながら、自然な形でコミュニケーションを取ることが大切です。共通の趣味の話をする、昔の思い出を語り合うなど、リラックスした雰囲気の中で、お互いの気持ちを少しずつでも伝え合えるようになると、介護もスムーズに進めやすくなるでしょう。

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息子が父親の介護を続けるために大切なポイント

介護を長く、そして穏やかに続けるためには、一人で全てを抱え込もうとせず、家族や専門家の支援を受けながら進めることが重要です。父親の気持ちに寄り添いながら、息子自身の心身の負担も軽減できるような関わり方を工夫していくことが求められます。

ここでは、父親との関係を大切にしながら、息子が介護を無理なく続けていくためのヒントをいくつか紹介します。

Point1:一人で抱え込まない勇気を持つ

「男性だから」「自分がしっかりしなければ」という思いから、悩みを打ち明けにくいと感じる方もいるかもしれませんが、介護で困ったことや不安なことがあれば、遠慮せずに専門機関に相談しましょう。ケアマネジャー、地域包括支援センター、あるいは同じような立場の人が集う男性介護者の会なども、心強い味方になってくれます。

介護は長期にわたることも多いため、早い段階で外部のサポートと繋がることで、精神的な負担を軽減し、より安定した介護を続けることができるでしょう。同じ経験を持つ仲間の話を聞くことで、自分一人では気づかなかった工夫や新たな選択肢が見つかることもあります。

Point2:介護保険サービスと働き方の工夫で負担を軽減する

仕事と介護を両立する場合には、介護保険サービスの活用が大きな助けとなります。訪問介護やデイサービス、ショートステイなどを利用することで、専門職の手を借りながら身体的な負担を軽減し、介護者自身の休息時間を確保することができます。

さらに、勤め先の介護休業制度や介護休暇制度の利用も検討しましょう。これらの制度を利用することで、介護保険に必要な手続きや、介護体制構築のための時間を確保できます。勤務先によっては、短時間勤務制度やフレックスタイム制などが導入されていることもあるため、人事担当者や上司に相談し、柔軟な働き方が可能かどうかを確認してみるのも一つの方法です。介護と仕事を両立させるためには、介護者が無理なく継続できる体制づくりが何よりも大切です。

Point3:兄弟姉妹との連携と役割分担

兄弟姉妹がいる場合は、介護の方針、具体的な役割分担、経済的な負担などについて、しっかりと話し合う機会を持つことが重要です。

介護は一人だけで背負うものではなく、家族全体で支え合うという意識を持つことが、共倒れを防ぐためにも大切になります。それぞれが得意なことや、できる範囲で協力し合うことで、一人にかかる負担を分散できます。また、父親にとっても、複数の家族と関わることは、精神的な安定につながることもあります。

Point4:自分自身の心身の健康を最優先に考える

介護者が心身ともに健康でなければ、良い介護を継続することはできません。意識して自分のための時間を作り、十分な休息を取り、趣味や好きなことでリフレッシュすることが非常に重要です。ストレスを溜め込まず、適度に息抜きをすることで、介護による精神的な負担を軽減し、父親ともより良好な関係を築くことができるでしょう。

また、介護を行う上で特に注意したいのが腰痛です。父親を支えたり、持ち上げたりする動作は、知らず知らずのうちに腰へ大きな負担をかけています。これを防ぐためには、「ボディメカニクス」(Memo参照)を意識した介護技術を身につけることが役立ちます。福祉用具(例:スライディングボード、リフトなど)や住宅改修(例:手すりの設置)を上手に活用することも、息子自身の身体を守りながら、安全な介護を実践するために有効です。

介護を続けていくためには、息子自身が無理をせず、心身ともに健康な状態で、長く安定して父親を支えられる環境を作ることが最も重要です。「自分の健康を守ることが、結果的に父親へのより良い介護につながる」ということを、常に心に留めておきましょう。

ボディメカニクスとは
介護の場面で、できるだけ小さな力で効率的に、かつ安全に身体を動かすための知識や技術のことです。人間の骨格や筋肉の動き、力の作用などを理解し、それを応用することで、介護する側・される側双方の身体的負担を軽減することを目的とします。例えば、何かを持ち上げる際には、対象に身体を近づけ、膝を曲げて腰を低くし、足の力を使って持ち上げることで、腰への負担を減らすことができます

Point5:父親の「できること」を見つけ、尊重する

介護が必要になったとしても、父親の全ての能力が失われたわけではありません。身の回りのことで、まだ父親自身ができることや、やりたいと思っていることを見つけ、それを尊重する姿勢が大切です。

全てを息子がやってあげるのではなく、父親ができることは可能な範囲で続けてもらい、役割や生きがいを感じてもらうことが、父親の自己肯定感を維持し、生活への意欲を高めることにつながります。「手伝いすぎない」という視点も持ちながら、父親の自立心を尊重したサポートを心がけましょう。

最後に

父親が高齢になり、若い頃とは違う身体的な衰えや認知機能の低下が見られるようになると、息子としては、かつての頼もしい父親の姿とのギャップに戸惑い、介護に対して前向きな気持ちになれないこともあるかもしれません。しかし、無理に気持ちを切り替えようとするのではなく、父親の変化を少しずつ受け入れながら、今の父親と向き合っていくことが大切です。

また、介護を懸命に続けるあまり疲れ果てるのではなく、息子自身が心身の健康を保ち、元気で生き生きとした姿を見せることが親孝行にもなります。介護は決して一人で抱え込むものではなく、様々な支援や人の手を借りながら、できる限り穏やかに続けていくことが重要です。

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