
毎日、一生懸命に介護と向き合っていると、「もし目を離している間に何かあったら」という不安が常に付きまといます。そんな心の重荷を少しだけ軽くしてくれるのが、見守りIoTやICTを活用した介護支援システムです。
「種類が多すぎて選べない」「使いこなせるか不安」という声もよく耳にします。そこでこの記事では、元ケアマネジャーの視点から、生活に馴染む機器の選び方や活用術を具体的にお伝えします。
なぜ今、見守りIoT・ICTが必要なの?
在宅介護では、24時間見守ることのプレッシャーや、夜間の転倒・徘徊への心配、薬の管理など、一人で抱え込むには重すぎる課題が多々あります。
見守り機器は、家族の代わりに「見守りの目」となってくれる頼もしい存在です。これらを活用することで、介護する側には「安心感という休息」が生まれ、介護を受ける側にとっても「自立した生活」を守ることにつながります。
見守りIoT・ICTの種類と選び方

ご本人の身体状況や、ご家族の「ここが一番心配」というポイントに合わせて選ぶのが成功のコツです。
そっと見守りたいときに:1. 人感センサー
どんなもの?
カメラのように姿を映さないため、本人の心理的負担を抑えながら、生活の異変をいち早く察知できるツールです。「部屋にカメラを置かれるのは抵抗がある」という、プライバシーを大切にしたい場合に最適です。
主な機能
- 夜間の起き上がり・動き出しの検知
ベッドの脚元や床に「人感センサー」を設置することで、夜中に布団から出た瞬間を知らせます。高価な施設用マットを敷かなくても、市販のコンパクトなセンサーを配置するだけで、転倒リスクなどに備えることができます。
- 生活リズムによる安否確認
トイレやリビングに設置し、一定時間動きがない時の「異変通知」や、いつもよりトイレの回数が多いといった「活動パターンの変化」をスマホで把握できます。
後悔しないためのチェックポイント
- 誤報を減らすための「角度調整」
寝返りには反応せず、脚を下ろした時だけ検知するようにセンサーの向きを調整できるか確認しましょう。
- 通知のタイムラグと方法
スマホのアプリに即時届くものなら、別の部屋にいても外出先でも、異変にすぐ気づけます。
- 設置のしやすさ
磁石や両面テープでポンと置くだけのタイプや、いつもの電池や電球を専用のものに交換するだけのタイプなら、工事は一切不要です。本人の動きや生活導線に合わせていつでも場所を調整・変更できるため、家庭での運用に最適です。
導入事例1
Aさん(80代・一人暮らし)
離れて暮らすご家族が、日々の安否確認に不安を感じていたケース。トイレの電球を見守り電球に交換したことで、「朝、トイレに電気がついた」という通知が家族のスマホに届くようになりました。カメラのような監視感がないため、Aさんのプライバシーを守りながら、ご家族も「今日も元気に起きているな」と毎日穏やかな気持ちで確認できるようになりました。
離れていても、隣にいるような安心を:2. 見守りカメラ
どんなもの?
スマホでリアルタイムの映像を確認できるカメラです。表情や動きを直接見られるので、状況が正確に分かります。
主な機能
- ライブ映像・録画
今の様子を確認し、必要に応じて録画も見返せます。 - 音声通話
カメラを通して、お互いに話すことができます。 - 動くものや音を検知
「転倒」や「徘徊の予兆(玄関への移動)」など、普段とは違う動きや大きな音を察知し、スマホ通地が届きます。 - 暗い場所でも見える機能
明かりのない夜間でも、はっきりと映像を確認できます。
選ぶときのポイント
- 夜間の視認性と画角(見える範囲)
転倒が起きやすいのは夜間です。「暗くても顔の表情までわかるか」「部屋の隅々まで見渡せるか」を確認してください。
- プライバシーへの配慮機能
「常に監視されている」という圧迫感を与えないよう、必要な時だけレンズが隠れるタイプや、特定の時間だけオンにできる設定があるものが望ましいです。
- 操作のシンプルさ
外出先からでも迷わずアプリを立ち上げ、すぐに映像が見られる「操作のステップの少なさ」が、緊急時の安心感に直結します。
導入事例2
Bさん(80代・認知症)
介護者が買い物などで短時間外出する際、Bさんが一人で外へ出て迷子にならないか不安を抱えていました。そこで玄関にカメラを設置。Bさんが玄関に近づくと家族のスマホへ通知が届くようにしたことで、外出先からすぐに声をかけたり、近隣の親戚に対応をお願いしたりと、迅速な対応が可能になりました。
お薬の「ついうっかり」を防ぐ:3. 服薬支援デバイス
どんなもの?
薬の飲み忘れや、間違った時間に飲んでしまうのを防ぐための機器です。設定した時間になると、音や光、あるいは「お薬の時間ですよ」という声で知らせてくれます。
主な機能
- 服薬アラーム・音声案内
設定した時間になると、音や光で薬を飲むように促します。 - 自動排出・取り出し管理
決まった時間以外は取り出せないようにしたり、自動で1回分を出したりします。 - 服薬完了の通知
薬を飲んだかどうかを記録し、離れた家族のスマホへ知らせます。 - 水分補給の促し
脱水予防のために、決まった時間に「お水を飲みましょう」と声をかけるタイプもあります。
選ぶときのポイント
- 操作のしやすさと容量
高齢の方が迷わず薬を取り出せるか、また1日に飲む回数が多い場合、数日分をまとめてセットできる容量があるかを確認しましょう。
- 「飲み忘れ」の通知機能
薬が出た時だけでなく、「一定時間取り出さなかった時」に家族へ通知が来る機能があると、より確実にフォローできます。
- レンタルと購入の比較
自治体や介護保険の枠組みで安価にレンタルできる場合もあります。在宅医療の状況によって条件が変わるため、まずは担当のケアマネジャーに相談するのがスムーズです。
導入事例3
Cさん(80代・認知症、一人暮らし)
飲み忘れや、逆に何度も飲んでしまう「重複服用」が心配されていたCさん。デバイスを導入したところ、決まった時間以外は薬が出ないため、安全に正しく服用できるようになりました。また、家族のスマホに服薬状況が届くため、離れて暮らしていても安心感を得られています。
服薬支援ロボットは高価な商品です。お住まいの地域や薬局によっては月額数千円でレンタルできる場合もあります。まずはかかりつけの薬剤師さんやケアマネジャーにご相談ください。
- 購入のメリット: 制度の枠外で自由に使い続けたい場合や、レンタルの手続きが面倒な場合。
- レンタルのメリット: 薬剤師さんが薬をセットしてくれるサービスと連動できることが多く、家族の負担がより減る。
手軽に飲み忘れを防ぎたい方には、設定した時間にお知らせしてくれる専用アラームの活用がおすすめです。安価ながらも確実な服薬習慣をサポートしてくれます。
心の寂しさを和らげる:4. コミュニケーションロボット・AIスピーカー
どんなもの?
おしゃべりを通じて孤独感を和らげたり、日々の予定を声で知らせてくれたりするロボットやAIスピーカーです。
主な機能
- 日常会話
話し相手になり、寂しさの解消や発語の機会を増やします。 - お知らせ機能
薬を飲む時間、デイサービスへ行く時間、ゴミ出しの日などを声で教えてくれます。 - 脳トレゲーム
記憶力や思考力を刺激するクイズやゲームで、頭の体操を促します。 - 緊急連絡機能
本人が「具合が悪い」「助けて」と訴えた際、あらかじめ登録した連絡先へ通知します。
選ぶときのポイント
- 会話の反応速度と聞き取りやすさ
耳の遠い方の場合、声が聞き取りにくいと会話が続きません。音量調節が細かくできるか、本人の話し方にロボットがうまく反応できるかを確認しましょう。
- 多機能さと使いやすさのバランス
機能が多すぎると、操作を覚えるのが負担になる場合があります。まずは「挨拶」や「お知らせ」など、日常的に使う機能がシンプルなものを選びましょう。
- プライバシーへの配慮
会話の内容がどのように扱われるか、常にマイクがオンになっていることに抵抗がないか、設置前に本人と確認しておくことが大切です。
導入事例4
Dさん(80代・一人暮らし)
一人暮らしで会話が減り、表情が乏しくなっていたDさん。ロボットを導入したことで、毎日の挨拶や薬の時間の案内が楽しみになり、生活にリズムが生まれました。また、離れて暮らすご家族も、ロボットを通じてDさんが元気に会話している様子を把握でき、安心感につながっています。
日々の「困った」を解決する5. その他の見守りIoT・ICT
ここまでご紹介した以外にも、日々の暮らしを支え、介護の負担を軽減してくれる便利なIoT・ICT機器があります。
- スマートロック(玄関の施錠管理)
【どんなもの?】
スマホで鍵の開閉状態を確認したり、遠隔操作で開け閉めができる機器です。
- 主な機能:鍵の閉め忘れ確認、外出先からの施錠・解錠。
- 介護でのメリット:ヘルパーさんなどの訪問時にベッドから動かず解錠できたり、鍵の閉め忘れを防ぐことができます。
【チェックポイント:緊急時の「バックアップ」があるか 】
万が一の電池切れや通信障害の際、物理的な鍵でも開けられるか、あるいは外から給電して解錠できる機能があるかを確認しておきましょう。
- 見守りタグ・GPS(外出時の安否確認)
【どんなもの?】
カバンや靴に装着し、現在地を特定できる小型の機器です。
- 主な機能:リアルタイムの現在地確認、設定エリアから出た際の通知。
- 介護でのメリット:外出先で道に迷ってしまった場合でも、すぐに居場所を特定できるため、ご本人の外出の自由を奪いすぎずに安全をサポートできます。
【チェックポイント:持ち運びの「しやすさ」と「忘れにくさ」】
本人が負担に感じない重さか、衣服やバッグに無理なく付けられるかなど、持ち忘れを防ぐ工夫ができるものを選びます。GPS収納に対応した靴もあり、不意の外出時も居場所を特定でき安心です。これらは自治体独自の助成対象になる場合があるため、まずはケアマネジャー等に確認することをおすすめします。
- 遠隔操作エアコン(室温の管理)
【どんなもの?】
外出先からスマホでエアコンの操作や温度確認ができる仕組みです。
- 主な機能:電源のオン/オフ、温度・湿度の設定、室温の異常通知。
- 介護でのメリット:暑さや寒さを感じにくくなっている高齢の方に対し、離れた場所から熱中症対策などの適切な室温調整が行えます。
【チェックポイント:室温の「通知機能」があるか】
単に操作できるだけでなく、「室温が30度を超えたらスマホに通知が届く」といった機能があるものを選ぶと、異変にいち早く気づき、対応が遅れるのを防げます。
見守り機器の導入効果と注意点

見守りを支えるIoT・ICT機器の導入は、介護に役立つさまざまなメリットが期待されます。ただし、注意が必要な点もあります。現場を知る専門家の視点で、大切なポイントをまとめました。
導入のメリット
- 介護負担の軽減と休息の確保
24時間緊張し続ける必要がなくなり、特に夜間の見守り不安が解消されることで、介護者の睡眠の質の向上が期待できます。
- 安心感と心のゆとり
離れていても状況が把握できるため、お互いに「見守られている・見守っている」という安心感が生まれ、生活にゆとりが持てます。
- 異変の早期発見とデータ活用
転倒や急病などの異変にいち早く気づけるだけでなく、睡眠や活動のデータを医師やケアマネジャーとの情報共有に役立てられます。
導入時の留意点
- プライバシーへの配慮と合意
「監視されている」という心理的負担を与えないよう、事前に導入の目的(安全のためなど)を話し合い、本人の納得を得ることが不可欠です。
- 誤報や機器トラブルへの理解
センサーの誤作動や通信環境の不具合は起こり得るものです。機器を過信しすぎず、定期的な点検や、万が一の際の連絡手段も確認しておきましょう。
- コストと操作の習得
初期費用や月額利用料が発生します。また、操作に慣れるまで時間がかかる場合があるため、サポート体制が整った製品を選ぶのが安心です。
- 専門家や制度の活用
介護保険でのレンタルや自治体の補助金が使える場合もあります。まずはケアマネジャーに相談し、費用を抑える方法を確認しましょう。
- 無理のない運用
最初から完璧を目指さず、まずは一番の心配事(夜間の転倒など)から1台ずつ試して、徐々に生活に馴染ませていくのが長続きのコツです。
終わりに:テクノロジーを味方につけて、心にゆとりを
介護は、ある日突然始まり、ゴールの見えない日々が続きます。すべてを身内だけで完璧にこなそうとすれば、いつか必ず心と体が悲鳴を上げてしまいます。
見守り機器を導入することは、「大切な家族と、これからも自宅で一緒に過ごし続けるための、前向きな備え」となります。
まずは今、最も不安に感じていることを機器に分担してもらうことで、少しずつ心に余白を作ってみてください。

