
デイサービスの利用において、送迎に関するトラブルは利用者やその家族にとって心身の大きな負担となります。
本来、時間は守られるべきであり、安全運転は当然の前提です。しかし実際の現場では、渋滞や急な体調不良への対応、限られた人員での運行など、避けられない要因が重なり、不満や不安に繋がってしまう現実があります。
そこでこの記事では、元ケアマネジャーでありデイサービスの管理者経験も持つ筆者が、送迎トラブルが起きる構造的な背景を明かすとともに、状況を改善するための的確な伝え方と具体的な解決策を解説します。
1. 送迎に関する主な不満とトラブルの傾向

デイサービスに寄せられる苦情は、大きく分けて以下の3つのカテゴリーに分類されます。
送迎時間の遅延と「連絡不足」
予定時刻を過ぎても車両が到着せず、かつ遅延の連絡がないケースもあります。家族の就労や他の介護サービスとの兼ね合いがある場合、数分の遅れが生活スケジュール全体に支障をきたします。
- 裏事情:ドミノ倒しの運行表
デイサービスの送迎ルートは、分単位で組まれた「綱渡り」のスケジュールです。ある家庭での介助に3分余計にかかっただけで、その後の全ての到着が遅れることも珍しくありません。遅延連絡がないのは、ドライバーが運転と介助を一人で兼務している場合が多く、「物理的に電話をかける余裕がない」、あるいは「次の家を急げば間に合う」という安易な予測が現場で働いているためです。
- 施設側の取り組み
デジタル化が進んだ施設では、送迎車にスマホやタブレットを完備しています。ボタン一つで家族へ遅延を知らせるシステムの導入や、運行管理者がリアルタイムで遅れをフォローする体制構築を進めています。
運転の安全性と接遇
急ブレーキや速度超過といった安全面への懸念に加え、挨拶の欠如や言葉遣いの不備など、ドライバーの質に関する不満です。
- 裏事情:人材確保と教育のジレンマ
送迎ドライバーの多くは、運転免許を持つ近隣のパートスタッフです。人手不足が深刻な地域では、多少の運転の癖や接遇の低さに目を瞑ってでも「車を出せる人員」を確保することを優先せざるを得ない苦しい事情があります。
- 施設側の取り組み
採用時に適性検査を導入し、安全意識や対人スキルを事前に評価する施設が増えています。また、ドライブレコーダーによる急操作の自動チェックや、定期的な「安全運転・接遇研修」を実施し、介護職と同水準の意識向上を求めています。
近隣トラブルおよび車内環境
停車位置による近隣への迷惑や、早朝・夕方のアイドリング音による騒音問題、さらに車内の空調設定や利用者同士の人間関係に関する不利益が挙げられます。
- 裏事情:効率優先の「最短ルート」の弊害
ドライバーには「遅れずに送迎したい」という強いプレッシャーがあります。そのため近隣配慮よりも「最短で乗降できる位置」を無意識に選択してしまいます。 また、夏場や冬場は、停車中も車内温度を維持するためにエンジンを切ることが難しく、結果としてアイドリング音が近隣への騒音となってしまうという、現場特有のジレンマも存在します。
- 施設側の取り組み
適切な運営を行う施設では、近隣への挨拶回りや停車位置のマニュアル化のほか、以下のような取り組みを行っている所もあります。
- 騒音対策: アイドリングストップの徹底や、近隣に配慮した停車位置
- 内部評価: 管理者などが定期的に送迎車へ同乗し、温度管理や騒音、安全運転の状況を客観的に評価する仕組み
2. 苦情を伝える際の状況整理
一方的に感情をぶつけてしまうと、施設側も「自分たちの正当性」を主張することに終始してしまい、話し合いがスムーズに進まないことがあります。 実質的な解決を早めるために、まずは以下の3点を整理しておくことが大切です。
- 事実の特定: 発生した日時、回数、具体的な内容を記録する。
- 支障の明示: その出来事により、どのような具体的困りごとが生じたかを伝える(例:仕事に遅刻した、近所から抗議を受けた)。
- 改善要望の明確化: 「遅れる場合は5分前に連絡がほしい」「停車位置を変えてほしい」など、具体的な着地点を提示する。
3. 改善につながる相談先と伝え方

整理した情報を「誰に・どう伝えるか」で、その後の対応スピードは大きく変わります。
ここでの目的は、施設側と対立することではなく、「同じ問題を繰り返さないための協力体制」を作ることです。施設側が改善に向けて具体的に動きやすくなるよう、以下のポイントを意識して伝えてみましょう。
現場ではなく「生活相談員」へ(施設へ直接伝える場合)
ドライバー本人への直接的な指摘は、感情的な対立を生むリスクがあります。まずは、契約やサービス調整の窓口である「生活相談員」か、責任者である「施設長」に連絡します。
施設側にはこう伝える
施設側の事情に理解を示しつつ、「これ以上の調整は家庭では限界である」と論理的に伝える方法です。
ケアマネジャーを介して伝える(第三者に仲介を頼む場合)
施設へ直接伝えにくい場合や改善が見られないときは、担当のケアマネジャーに報告してください。ケアマネジャーはサービス計画の管理責任者(中立な調整役)として、施設側と対等な立場で現状確認を行う役割を担っています。
ケアマネジャーにはこう伝える
施設を批判するのではなく、「プロの目から見た実態確認」を依頼し、三者での解決を促す方法です。
4. 状況改善に向けた提案

話し合いの際、施設側に「自分のケースではこうしてほしい」と具体的に伝えることで、再発防止の確度が高まります。
- 遅延連絡の「ルール」を決める
「遅れるときは連絡してください」という曖昧な依頼ではなく、「家を出る予定時刻を5分過ぎたら、一本お電話をいただけますか」と、具体的な条件で合意を得るようにします。
- 停車位置を「図解」で共有する
言葉での説明は、ドライバーが交代すると忘れられがちです。自宅周辺の地図を渡し、「近隣トラブルを避けるため、ここに停車してほしい」という目印を明確に伝えておくだけでも、現場の混乱を防げます。
- 解決しない場合は「施設変更」も視野に
送迎トラブルが改善されない背景には、その施設の「運行体制」そのものに無理があるケースも少なくありません。真摯な相談を重ねても改善が見られないのであれば、ストレスを抱え続けるよりも、安全な運行体制が整った他施設への変更を検討することも、大切な選択肢の一つです。
まとめ:苦情は解決の見通しを持って伝えよう
送迎に関する不満を伝えることは、決して「文句」を言うことではなく、「安心してサービスを使い続けるために必要な対話」です。
施設側の裏事情を理解しつつも、ご自身の困りごとを事実に基づいて冷静に伝えることで、双方が納得できる着地点を見つけられる可能性が高まります。
お互いに誠実なコミュニケーションを心がけることが、結果としてより良い介護サービスの提供に繋がります。

