
介護が始まると、個人の時間は犠牲になりがちです。なかでも友人との飲み会や職場の同僚との食事会は、睡眠や家事と違い「単なる遊び」と見なされやすいため、多くの人が自ら真っ先に諦めてしまいます。
こうした交流を断ち続けることは、単なる我慢では済みません。社会的な孤立は、介護の継続を危うくするリスクに直結します。
この記事では、介護者が抱く「飲み会への後ろめたさ」の理由を深堀し、介護サービスを実務的にどう組み合わせれば自分の時間を確保できるのか、具体的な事例を交えて解説します。
「付き合いを断つこと」が招く4つの心理的リスク

「飲み会に行けない」という小さな欠落の積み重ねは、自覚のないまま精神を摩耗させます。人との交流を断つことが、具体的にどのような負の影響を及ぼすのか、4つの事例から検討します。
疎外感と誘いの減少(Aさんの事例)
仕事と両立しながら両親をケアするAさんは、何度も誘いを断るうちに、周囲から声をかけられること自体が減っていきました。
専門職の視点
周囲の「気を遣って誘わない」という配慮が、結果としてAさんをコミュニティから遠ざけ、自覚のないまま社会的な孤立を深めてしまう要因となります。
SNSを通じた嫉妬心(Bさんの事例)
休日も親のケアに追われるBさんは、夜にSNSで友人が会食している姿を見て、「なぜ自分だけが」という強い嫉妬心を抱くようになりました。
専門職の視点
感情のコントロールが効かないのは、休息が極限まで不足しているサインです。性格の問題ではなく、ケアプランの調整が必要な時期だと言えます。
相談相手の消失と塞ぎ込み(Cさんの事例)
育児と介護が重なったCさんは、外出機会が減るにつれ、悩みを話せる相手がいなくなり、一人で塞ぎ込む時間が増えました。
専門家の視点
外部との接点を失うと、自身の限界を客観的に判断できなくなり、深刻な不調を見逃すリスクが高まります。
人間関係の維持への不安(Dさんの事例)
親の介護を優先し、恋人との約束を繰り返し延期していたDさんは、関係の維持に強い不安を抱いていました。
専門家の視点
介護が終わったあとの人生を支えてくれるのは、今ある人間関係です。大切な人との繋がりをあきらめないことは、未来の自分の居場所を守ることにつながります。
サービスを組み合わせて「飲み会」を実現する具体策

飲み会を実現するには、自分の外出時間に合わせて、親が安全に過ごせる「段取り」を整えることが大切です。サービスをどう活用して時間を捻出したのか、実務的な例を提示します。
【訪問介護】夜間の食事・就寝ケア(Aさんのケース)
Aさんは、23時までの外出を確保するため、ケアマネジャーと相談し訪問介護の時間を調整しました。
具体的な調整例
通常の身体介護に自費(保険外)サービスを上乗せし、ヘルパーに「夕食から就寝の見守り」までを依頼。プロが自宅にいる安心感が、外出時の後ろめたさを軽減します。
【小規模多機能型居宅介護】通いと宿泊のセット(Bさんのケース)
Bさんは、普段から利用している「小規模多機能型居宅介護」の宿泊サービスを利用しました。
具体的な調整例
一晩預けることで、「何時までに帰らなければ」という時間的制約から解放されます。宿泊の活用は、心理的なゆとりを最大化する手段です。
【ショートステイ】計画的なリフレッシュ(Cさんのケース)
Cさんは、ケアマネジャーの勧めで、早めに(1~2ヶ月前から)ショートステイを予約しました。
具体的な調整例
数日前から施設へ預けることで、飲み会当日だけでなく、その前後の準備や休息時間も確保。友人との会話を心置きなく楽しむことで、孤立感の解消に繋げました。
実務的な調整と「罪悪感」への対処法

物理的な準備以上に、周囲の理解を得るための「調整」が最大の壁となります。ここでは、ケアマネジャーや家族の協力を仰ぎ、後ろめたさを解消するための具体的なコミュニケーションの進め方を整理します。
ケアマネジャーへの「伝え方」の再定義
「遊びたい」と伝えることに抵抗があるなら、目的を「介護の質を維持するための投資」と定義し直してください。 ケアマネジャーの職務は「在宅生活の継続」を支えることです。介護者のリフレッシュは、ケアの破綻(共倒れ)を防ぐための正当な調整理由になります。「自分の娯楽」ではなく、「持続可能な介護のためのリスク管理」として相談を持ちかけましょう。
「自分だけ楽しむこと」への後ろめたさを手放す
「自分だけ美味しいものを食べていいのか」「親が家で待っているのに」という罪悪感は、多くの介護者が抱く感情です。しかし、その感情に飲み込まれてしまう前に、以下の視点を持ってみてください。
- 「介護者」である前に「一人の人間」
あなたの人生は、介護のためだけにあるのではありません。一人の人間として社会と繋がり、笑う時間は、心身の健康を維持するために不可欠な権利です。
- 笑顔は最高のケア資源
疲れ果てて余裕のない顔で介護を続けるよりも、リフレッシュして穏やかな気持ちで接する方が、結果として親にとっても質の高いケアに繋がります。「自分のための時間」は、めぐりめぐって「親のための時間」にもなるのです。
- プロに任せるのは「愛情」
あなたが不在の間、プロのヘルパーや施設スタッフが関わることは、親にとっても「家族以外との交流」という刺激になります。すべてを一人で背負わず、外部の力を借りることは、介護の「持続可能性」を高める賢明な選択です。
【状況別】ケアマネジャーへの相談用トークスクリプト
電話や面談でそのまま使える文例です。ポイントは「遊びに行く」という表現を避け、「介護継続のためのリフレッシュ」という共通認識で話を進めることです。
| 相談したい内容 | 主な対象(目的) | ケアマネジャーへの伝え方(文例) |
|---|---|---|
| 1. 訪問介護(ヘルパー)の調整・延長 | 夕方〜夜の数時間を空けたい時 | 「今の介護生活を長く続けていくために、リフレッシュする時間を持ちたいと考えています。〇日の18時〜21時頃まで外出したいのですが、訪問時間をずらしたり、自費サービスを組み合わせて夕食と見守りをお願いしたりすることは可能でしょうか?」 |
| 2. 小規模多機能で「宿泊」を急遽追加 | 夜遅くなる・泊まりで休みたい時 | 「最近、介護と仕事のバランスで疲れが溜まっており、共倒れ防止のために休息をとりたいと思っています。〇日に宿泊を利用させていただけないでしょうか。友人と会って介護を忘れる時間を作ることで、心にゆとりを持ちたいと考えています。」 |
| 3. ショートステイを計画的に予約 | 1~2ヶ月以上先の予定に合わせて確実に時間を確保したい時 | 「私自身の『レスパイト(休息)』を目的として、来月の〇日頃にショートステイを利用したいです。社会との接点を維持するために会食に参加しようと考えています。良いケアを続けるために定期的にこうした時間を作りたいのですが、予約状況はいかがでしょうか?」 |
スムーズな調整のための3つのルール
- 予定が決まった段階で、早めに連絡を入れる
サービスの調整や予約状況の確認には時間がかかります。予定が決まったら、なるべく早いタイミングでケアマネジャーへ相談するのが、スムーズに調整を進めるポイントです。 - 直近の誘いには「柔軟な組み合わせ」を検討する
来週や数日後の急な誘いの場合、ショートステイの確保は難しいことが多いのが実情です。その場合は、訪問介護の時間をずらしたり、数時間の自費(保険外)サービスをスポットで組み合わせたりすることで、必要な外出時間を確保できる可能性があります。 - あらかじめ「休息日」を決めておく
親しい友人など、前もって予定を合わせられる相手であれば、先にショートステイの予約が取れた日に合わせて会食を設定するのも一つの方法です。確実に自分の時間を確保でき、心理的なゆとりも生まれます。
今日からできる、自分を取り戻すための3ステップ
「いきなり飲み会に行く」と意気込む必要はありません。まずは以下の小さなステップから、自分のための時間を確保する準備を始めてみてください。
- カレンダーに「理想の外出日」を書き込む
まずはサービスの空き状況などを気にせず、自分が「この日に友人と会えたら嬉しい」と思う日に印をつけます。これを「未定の予定」から「確定させるべき目標」に変えるのが第一歩です。
- ケアマネジャーに「一度、自分の時間の持ち方を相談したい」とだけ伝える
具体的な日程が決まっていなくても構いません。「今の生活を続けるために、リフレッシュする仕組みを作りたい」という意思を、次回の訪問や電話の際に一言伝えておくだけで、その後の調整が格段にスムーズになります。
- 1時間だけの「お試し外出」をしてみる
最初から長時間の飲み会を目指すと不安が勝ってしまいます。まずは近所のカフェに行くなど、短時間の外出にサービスを組み合わせてみてください。「自分が不在でもプロがいれば大丈夫だ」という成功体験が、後ろめたさを解消する一番の薬になります。
まとめ
介護に追われる毎日でも、人とのつながりや楽しい時間を諦める必要はありません。サービスを活用し、周囲へ適切に相談し、自分を優先する時間を持つ。それは結果として、あなたの心と体を守り、介護という長い道のりを支え続ける力になります。
介護を頑張るあなたこそ、気兼ねなく笑い、自分自身に戻る時間を持つべきなのです。まずは最初の一歩として、自分の「行きたい」という気持ちを認めることから始めてみませんか。

