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高齢者のおむつ外し:在宅介護で無理なく進める方法と注意点

2025年8月23日

親や配偶者の介護で、おむつの使用に戸惑う方は少なくありません。利便性から使い始めることが多い一方で、おむつを使うことで皮膚トラブルや感染症のリスク、本人の自立心や自尊心の低下といった課題が生じることもあります。

そのため、「できるだけおむつを使わずに過ごしたい」と考える高齢者やご家族は多いでしょう。

この記事では、おむつ使用のデメリットに触れつつ、在宅で無理なくおむつに頼らない生活を送るための具体的な方法をご紹介します。

おむつを使用するデメリット

おむつの長期使用は、皮膚トラブルや姿勢の不安定化など、さまざまな影響を及ぼします。

  • 皮膚トラブルのリスク

長時間の使用により、皮膚炎やかぶれが発生しやすくなります。特に高齢者の皮膚は敏感であり、湿気や摩擦によるダメージを受けやすいです。

  • 姿勢の不安定化や動きにくさ

おむつの厚みによって座った姿勢が不安定となり、崩れやすくなります。これにより、食事の際の飲み込みに影響し、誤嚥を起こす可能性も高まります。
また、おむつの装着によって歩行や動作が制限されることがあり、特に適切なサイズや種類を選ばないと、さらに動きにくさが増す恐れがあります。

  • 臭いや廃棄物の問題

おむつを長時間使うと、尿の成分が分解されてアンモニア臭が発生し、排せつ物の臭いが強くなって不快に感じることがあります。
さらに、使い捨ておむつの廃棄量が増えることで環境負荷が高まるだけでなく、介護者にとっても処理の手間がかかる問題があります。

  • 自尊心への影響

おむつを使用することで自立心が低下し、心理的な負担を感じることがあります。さらに、排せつの管理を他者に頼ることになると、不快感や恥ずかしさに加え、精神的な負担やストレスも強まります。

おむつを長く使うことで起こる問題:おむつ性失禁

おむつを長期間使用すると排せつの自立が失われ、コントロールが困難になる「おむつ性失禁」に陥る可能性があります。この状態は、おむつへの依存や身体機能の低下によって引き起こされます。

【1】おむつへの依存が強くなる(依存の形成)

おむつの使用が習慣化すると、排せつのタイミングを意識しなくなります。トイレに行く機会が減ることで、尿意や便意を感じる機能が弱まり、失禁が増える原因となります。

【2】筋力の低下

おむつを使い続けることで、骨盤底筋や排尿に関わる筋肉が弱まり、排せつのコントロールが難しくなります。さらに、排せつに必要な訓練や運動をしないままだと筋力低下が進行し、失禁の悪化を招く恐れがあります

【3】心理的な影響

おむつを使い続けると、排せつはトイレで行うものではないと認識するようになり、トイレへ行く習慣が薄れてしまいます。これにより、無意識のうちにおむつで排せつするようになり、尿意が遠のいていきます。

おむつ外しがもたらすメリット

高齢者が快適な日常を過ごすには、排せつの自立が重要です。おむつを使用しない生活に移行することで、身体的・精神的な健康が向上し、より良い日常を送ることができます。

  • 自立心の向上

自分で排せつを管理できるようになることで、自己肯定感や自立心が高まります。

  • 皮膚トラブルの軽減

長時間おむつを使用することで発生する皮膚炎やかぶれを防ぐことができます。

  • 日常生活の向上

排せつコントロールが可能になることで、外出や活動の幅が広がります。

おむつの長期使用による影響は、身体機能の低下や心理的負担につながることがあります。しかし、適切な支援を行えば、排せつの自立を取り戻すことは可能です。無理のない方法で少しずつ取り組むことで、介護する側の負担を軽減しながら、おむつに頼らない生活へと移行できます。

必ずしも完全にノーマルパンツに移行する必要はありません。 介護者と本人の負担を減らすため、状況に応じておむつやパッドを使い分けることも大切な選択肢です。例えば、夜間や外出時など、すぐにトイレへ行けない状況ではパンツタイプのおむつを使用したり、日中の尿漏れ(少量)であれば薄いパッドを使うなど、柔軟に対応することで、無理なく排せつの自立を目指せます。

在宅介護でおむつ外しを進めるポイント

おむつを外すことには多くのメリットがありますが、家族にとっては「本当にできるのか」「介護の負担が増えるのではないか」と不安を感じることもあるかもしれません。

排せつのタイミングを見極めることや、トイレまでの誘導をこまめに行うことは、日常の介護において大きな手間となる場合があります。また、失敗した際の後片付けや衛生管理をどうするかという点も課題となります。

このような不安を軽減するためにも、ポイントを押さえながら少しずつ環境を整えていくことが重要です。

ポイント1:排泄自立のための「4つの基本ケア」を行う

おむつ外しには、以下の4つの基本ケアが欠かせません。これらがしっかり実践されていないと、おむつ外しは難しくなります。なぜなら、便意や尿意を自覚できる体調と意識レベルを整えることが、おむつを外すための最初のステップだからです。一つずつ見ていきましょう。

  • 1日1,500ml以上の水分を摂る

水分不足は脳への血流を悪くし、意識がぼんやりして尿意を感じにくくなります。特に高齢者は体内に蓄積できる水分量が低下しているため、こまめな水分補給が必要です。

水分摂取のコツ
好む飲み物を用意するほか、寒天ゼリーやかき氷なども活用できます。ただし、スポーツドリンクやジュースなど、甘い飲み物に偏らないように注意しましょう。

注意
水分補給は重要ですが、心臓や腎臓に疾患があるなど、医師から水分摂取を制限されている場合は、必ず指示に従ってください。

  • 1日1,500kcal程度の食事を摂る

水分は飲み物だけでなく食事からも摂取が必要です。活動するエネルギーは食事からしか補給できません。1日3食+おやつで必要なカロリーを確保しましょう。一人暮らしで、買い物や調理が負担に感じられる場合は、配食サービスや冷凍弁当の利用を検討すると安心です。

必要量のエネルギーを摂るコツ
少食の場合や必要量が摂れていない場合は、栄養補助飲料などを活用すると良いでしょう(ドラッグストアや通販で購入可能)。

  • 便秘を起こさない

便秘の予防・解消は、おむつ外しの重要な条件です。下剤を服用すると排便のコントロールが難しくなり、効きすぎて下痢になったり、トイレが間に合わなかったりすることがあります。こうした失敗を経験すると、おむつを外すことへの意欲が低下してしまうことがあります。また、便秘が長引くと自律神経を刺激し、認知症の方であれば落ち着きがなくなり、介護量が増すこともあります。

便秘予防のコツ
食物繊維入りのパンや飲み物、粉末状のファイバーなどを取り入れると良いでしょう。便は適度な水分を含んでいないと排出されないため、必要量の水分摂取も欠かせません。

  • 1日2km程度のウォーキング、あるいは30分程度の運動を行う

週4日程度取り入れると効果的です。尿意や便意を感じたらトイレまで行き(あるいはポータブルトイレ)排せつするためには、「歩く」動作が欠かせません。

運動のコツ
普段から動ける方は、歩く機会を多く持ちましょう。歩行が不安定な場合は歩行器を使用したり、歩くのが難しい場合は機能訓練を行っているデイサービスなどで「歩けるような訓練」を定期的に行えるようにしましょう。

注意
長期間歩いていない方の場合は、安全に歩行能力を再獲得できるように、理学療法士などの専門職に相談しましょう。

ポイント2:4つの基本ケア実践には介護保険サービスを使う

4つの基本ケアは、介護保険サービスを活用することで、環境を効果的に整えることができます。

  • 水分摂取の促進に

デイサービスや訪問介護(ヘルパー)を利用する際は、水分を積極的に摂ってもらうよう依頼しましょう。例えば、「デイサービスにいる間は1,000mlの水分を摂らせてください」と具体的に伝え、実際に摂った水分量も報告してもらいましょう。

  • 栄養管理の強化に

デイサービスやデイケアでは栄養バランスの取れた昼食が提供されるため、食事の質を向上させることができます。訪問介護(ヘルパー)に調理を支援してもらい、食物繊維やたんぱく質に配慮した食事を用意することも可能です。

  • 便秘予防・解消のための運動に

活動的なデイサービスを選ぶことが有効です。体操やレクリエーション活動に参加することで立ち座りや歩行を促し、腸の働きが活性化します。

  • 排泄に必要な歩行能力の維持・改善に

歩行が不安定な場合は、機能訓練を中心としたデイサービスを利用し、「歩行」に力を入れているところを選びましょう。まったく歩けない方でも、立位の訓練から始めてもらい、歩行器歩行に移行できるようなプログラムを組んでもらうことができます。

4つの基本ケアは、全てを家族だけで行うのは困難なため、まずは水分のケアから始めてみてください。排便だけでもトイレでできるようになると、介護はグッと楽になります。

ポイント3:おむつ外しの計画はケアマネジャーから

おむつを外したいことをケアマネジャーに相談しましょう。ただし、残念ながら、ケアマネジャーの中には「おむつを外すことはできない」と思い込んでいる方もおり、協力が仰げない場合もあるかもしれません。その場合は、まずは4つの基本ケアを先に行えるように相談すると良いでしょう。

「便秘を改善するために、1日1,500ml以上の水分を摂れるようにしたい」「再び歩けるようになりたい」といった希望は、居宅サービス計画書にしっかり反映してもらいましょう。計画書に記載された目標は、介護保険サービスの事業所にも共有され、支援の方針として明確に位置づけられます。

最後に

在宅介護でのおむつ外しは、本人にとっても家族にとっても、大きな目標であり、達成できれば日々の生活の質を大きく向上させることができます。成功のポイントは、焦らず段階を踏みながら、本人と介護する側の両方が無理なく続けられるペースで進めることです。

排せつの自立は本人の尊厳を守り活動範囲を広げることにも繋がります。この記事で紹介した「4つの基本ケア」や介護保険サービスの活用、そしてケアマネジャーとの連携を通じて、ぜひおむつ外しに挑戦してみてください。

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