
トイレに入ったまま、なかなか出てこない。声をかけると「出そうなのに出ない」と言う。高齢の親の排便で、こうした場面はめずらしくありません。
便が出そうで出ないとき、まず見直したいのはトイレでの座り方です。背すじを伸ばしたままの座り方では、便の通り道が曲がったままになり、いきんでも力が伝わりにくくなります。高齢になるといきむ力そのものも弱くなるため、前かがみの姿勢と足の位置を整えるだけで、出やすくなることがあります。
この記事では、トイレでできる姿勢といきみ方のコツと、姿勢を変えても出ないときに相談が必要なサインを解説します。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。スッキリ排便するには、トイレでの座り方が大切です。現場で培った、ご家族がすぐ試せる方法をお伝えします。
この記事でわかること
- 便が出そうで出ないときに試したい座り方
- 前かがみの姿勢と足の位置の整え方
- 力が入りにくい人のいきみ方のコツ
- 姿勢を変えても出ないときに相談するサイン
便が出そうで出ないとき、まず見直したい座り方
便が出そうで出ないときは、いきむ力を強くする前に、まず座り方を整えます。ポイントは「前かがみ」と「足の位置」の2つです。
背すじを伸ばしたまま、前かがみになる
便座に深めに座り、背すじを伸ばしたまま、脚の付け根から上半身を前に倒します。太ももにひじをのせるような姿勢です。
前かがみになると、直腸から肛門への通り道がまっすぐに近づき、便が下りやすくなります。また、お腹の中の臓器が下がって、軽くいきむだけでも腹圧がかかりやすくなります。
気をつけたいのは、猫背になってしまうことです。 背中が丸まるとお腹が縮こまり、いきんでも便を押し出しにくくなります。「いきんでも出ない」ときは、力が足りないのではなく、この座り方が原因になっていることも少なくありません。声をかけるときは、「背すじを伸ばしたまま、おじぎをするように」と言うと、本人も姿勢をイメージしやすくなります。

足の裏をつけ、膝を腰より少し高くする
足を肩幅くらいに開き、足の裏を床にしっかりつけます。足が床につくと踏ん張りやすくなり、座った姿勢も安定します。
さらに、膝が腰より少し高くなると、自然と前かがみの姿勢がとりやすくなります。 足が床に届かない人や、もう少し膝を上げたいときは、足元に台を置きましょう。
足台を選ぶときは、滑りにくく安定していること、高さを変えられることを確かめましょう。高さを変えられると、本人の脚の長さや便座の高さに合わせやすくなります。はじめは一番低い高さから試して、本人が「楽に踏ん張れる」と感じる高さを探してみてください。
置く場所にも気をつけます。台につまずかないよう、立ち上がるときや車いすから移るときに足が引っかからない位置に置いてください。ふらつきがある方や、車いすから移る方は、使う前にケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しましょう。
前かがみを続けられないときの工夫
体を前に倒したままでいるのが難しい人には、少し硬めのクッションを抱えてもらうと、姿勢が安定しやすくなります。体の前に手すりがあると、つかまりながら前かがみを保つことができます。
トイレの手すりは、取り付け工事が必要なものは介護保険の住宅改修、置くだけのタイプは福祉用具のレンタルの対象になることがあります。要支援・要介護の認定を受けている方は、買ったり工事をしたりする前に、ケアマネジャーに相談してください。 先に購入や工事をすると、介護保険が使えないことがあります。
力が入りにくい人のいきみ方
座り方を整えたら、次はいきみ方です。高齢になると腹筋が弱くなり、いきむ力も落ちてきます。大切なのは、強くいきむことではなく、少ない力をうまく便に伝えることです。
息を止めず、吐きながらお腹に力を入れる
いきむとき、多くの人は息を止めて顔に力を入れます。ところが、息を止めると体全体がかたくなり、お尻の出口までしめてしまうことがあります。
おすすめは、口を軽く開けて「ふーっ」と長く息を吐きながら、おへその下を前にふくらませるようにお腹に力を入れる方法です。お尻の力はゆるめたままにします。数秒いきんだら、一度力を抜いて呼吸を整え、またくり返します。
そばで声をかけるときは、「がんばって」より、「息を吐きながら、ゆっくりね」と伝えるほうが、本人も力を入れやすくなります。
⚠ 注意
息を止めて強くいきみ続けると、血圧が一時的に大きく上がり、いきむのをやめた直後には逆に下がります。そのため、排便のあとに急に立ち上がると、立ちくらみやふらつきから転ぶことがあります。終わったあとは、少し座ったまま呼吸を整えてから、ゆっくり立ち上がりましょう。
心臓の病気や高血圧、脳卒中などの持病がある方は、排便時のいきみ方について主治医に確認しておくと安心です。
座ったまま、お腹をやさしくさする
いきんでも出にくいときは、いったん力を抜いて、お腹に手を当て、おへそのまわりを「の」の字にゆっくりさすってみてください。強く押す必要はなく、手のひらでなでる程度で十分です。腸を直接動かすというより、お腹の緊張をゆるめて、いきみやすい状態を整えるための準備です。
それでも出ないときは、無理に座り続けないことも大切です。10分ほど座っても出なければ、いったん切り上げて、食後など別のタイミングでもう一度座りましょう。 長くいきむほど、体への負担は大きくなります。
なぜ座り方で出やすさが変わるのか|排便を助ける3つの力
ここまで紹介した座り方やいきみ方は、排便を助ける3つの力をもとにしています。仕組みを知っておくと、うまくいかないときに、どこを見直せばよいかがわかります。
1. 大腸の蠕動運動|便を動かす力
大腸は、伸び縮みする動き(蠕動運動)で便を直腸へ送ります。この動きは、胃に食べ物や飲み物が入ると強まります。これを「胃・結腸反射」といい、朝食後に便意を感じやすいのはこのためです。
体を動かす時間が減り、横になっている時間が長い生活では、この動きは弱まりやすくなります。

2. 重力|便を下へ導く力
座った姿勢では、便は重力で自然に下へ向かいます。一方、寝た姿勢では肛門が直腸より高い位置になるため、便を重力に逆らって押し出さなければなりません。前かがみになると、直腸から肛門への通り道がまっすぐに近づき、重力をさらに生かしやすくなります。
3. いきむ力|便を押し出す力
尿は力を入れなくても出ますが、便はお腹の圧(腹圧)で直腸を押すことで外に出ます。高齢になると腹筋が弱くなり、この力も落ちてきます。前かがみの姿勢や、息を吐きながらのいきみ方は、弱くなった力を補うための方法です。

トイレに誘うタイミングと、落ち着いて座れる環境
座り方やいきみ方と同じくらい大切なのが、いつトイレに座るか、どんな環境で座るかです。
朝食後にトイレに座る時間をつくる
朝食後は、胃・結腸反射で大腸の動きが強まり、1日のなかで最も便意が起こりやすい時間です。便意を感じていなくても、朝食後には毎日同じ時間にトイレに座る習慣をつくりましょう。
朝起きてすぐにコップ1杯の水や牛乳を飲むと、胃が刺激されて、腸が動き出すきっかけになります。お腹を温めるのもよい方法です。
便意を伝えられない方や、トイレに行くのをおっくうがる方には、便意を待つのではなく、周りから声をかけて誘いましょう。便意を我慢することが続くと、便意そのものを感じにくくなっていきます。
落ち着いて座れる環境を整える
排便は、リラックスしているときに起こりやすくなります。人の目が気になったり、急かされたりすると、出かかっていた便も止まってしまいます。
一方で、下着を下ろして便座に座るという動作そのものが、体に「排便の準備ができた」と知らせる合図になります。
冬は、トイレが寒いと体がこわばり、血圧も上下しやすくなります。小さな暖房器具や便座の保温で、寒さをやわらげておきましょう。
トイレに置くヒーターは、人が入ったときだけ動く人感センサー付きで、倒れると止まるものが安心です。置くときは、足や衣類が吹き出し口に触れず、立ち上がりの邪魔にならない場所を選び、コードにつまずかないよう気をつけましょう。
ケアマネ目線メモ
付き添いは、少し離れて待つ
転ぶのが心配で、トイレの前でずっと見守っているご家族は少なくありません。でも、見られていると出にくいのは誰でも同じです。座った姿勢が安定していることを確かめたら、「終わったら呼んでね」と声をかけて、ドアの外で待ってみてください。
寝たままだと便が出にくい理由
寝たままの姿勢では、排便を助ける3つの力が、どれも働きにくくなります。
- 体を動かさないため、大腸の動き(蠕動運動)が弱まりやすい
- 肛門が直腸より高い位置になり、便を重力に逆らって押し出さなければならない
- 足で踏ん張れず、お腹に力を入れにくい
ベッドで横になったまま排便しようとする方の多くは、ベッド柵に足を押しつけたり、マットレスを踏み込んだりして、なんとか踏ん張ろうとします。それでもお腹に十分な力はかからず、出にくい状態が続いてしまいます。おむつの中に出すことに抵抗があり、無意識に便をこらえてしまう方もいます。

だからこそ、少しの時間でもトイレやポータブルトイレに座ることに意味があります。ベッドから車いすやポータブルトイレに移るだけでも、重力を使えるようになります。
トイレへの移動を手伝うことが家族の負担になっている場合は、介護保険のサービスを活用しましょう。ホームヘルパー(訪問介護)に排せつの介助を頼んだり、デイサービスで日中にトイレで排便できる流れをつくったりすることができます。ポータブルトイレは、介護保険の福祉用具購入の対象です。まずはケアマネジャーに相談してください。
座り方を変えても出ないときは、早めに相談を
座り方やいきみ方を見直しても出ないときは、姿勢だけでは解決できない状態になっていることがあります。
出口の近くで便が硬くなっていることがある
便が長く腸の中にとどまると、水分が吸われて硬くなり、直腸の出口近くでかたまりになってしまうことがあります。こうなると、便意はあるのに出ない「出そうで出ない」状態が続き、座り方を変えても押し出すのは難しくなります。
硬くなった便は、看護師や医師が便をかき出す処置(摘便)や浣腸で出すことが必要になる場合があります。訪問看護を利用している方は、まず看護師に相談しましょう。
相談の目安と相談先
次のようなときは、様子を見続けずに相談してください。
- いつもの間隔より長く、3日以上便が出ていない
- お腹が張って苦しそう、痛がる
- 食欲が落ちている、吐き気がある
- 便に血が混じる、便の形や回数が急に変わった
- 落ち着かない、怒りっぽいなど、いつもと様子が違う
強い腹痛や吐き気があり、お腹が張って苦しそうなときは、すぐに受診してください。
相談先は、かかりつけ医や訪問看護の看護師です。どこに相談すればよいかわからないときは、ケアマネジャーに伝えれば、受診や訪問看護の利用につなげることができます。
下剤や浣腸は自己判断で使わない
市販の下剤や浣腸は手軽に手に入りますが、自己判断で使うのは避けましょう。下剤にはいくつかの種類があり、腸を刺激して動かすタイプ(刺激性下剤)を長く使い続けると、大腸の動きが落ちて、かえって自然に出にくくなることがあります。 また、出口で便が硬くなっているときに下剤を使うと、強い腹痛につながることもあります。
今使っている下剤が合っているか気になるときも、医師やケアマネジャーに相談してください。
よくある質問
便座に深めに座り、背すじを伸ばしたまま、脚の付け根から上半身を前に倒す姿勢です。足の裏を床につけ、膝が腰より少し高くなると、さらに前かがみがとりやすくなります。足が届かないときは、足元に台を置きましょう。
息を止めて力むのではなく、口を軽く開けて長く息を吐きながら、おへその下を前にふくらませるようにお腹に力を入れます。お尻の力はゆるめたままにしましょう。数秒いきんだら力を抜き、呼吸を整えてからくり返します。
朝食後は大腸の動きが強まり、便意が起こりやすい時間です。便意がなくても、毎日同じ時間にトイレに座る習慣をつくりましょう。朝起きてすぐの水や牛乳、お腹を「の」の字にさすることも、腸が動くきっかけになります。
長く座っていきみ続けると、体への負担が大きくなります。10分ほど座っても出なければ、いったん切り上げて、別のタイミングで座り直しましょう。終わったあとは急に立たず、少し座ったまま呼吸を整えてから立ち上がるよう声をかけてください。
硬めのクッションを抱えたり、体の前の手すりにつかまったりすると、前かがみの姿勢が安定しやすくなります。トイレの手すりやポータブルトイレは、介護保険を使える場合があるので、購入や工事の前にケアマネジャーに相談してください。
いつもの間隔より長く、3日以上出ていないときは相談の目安です。お腹の張りや痛み、食欲の低下があるときも、様子を見続けないでください。強い腹痛や吐き気があるときはすぐに受診を。市販の下剤や浣腸は、自己判断で使わないようにしましょう。
まとめ|便が出そうで出ないときは、座り方といきみ方から
便が出そうで出ないときは、強くいきむ前に、まず座り方といきみ方を見直してみましょう。
- 背すじを伸ばしたまま前かがみになり、足の裏をつけて膝を少し高くする
- 息を止めずに、吐きながらお腹に力を入れる
- 朝食後など、決まった時間にトイレに座る
それでも出ないときや、お腹の張り・痛みがあるときは、座り方だけで様子を見ず、かかりつけ医や訪問看護、ケアマネジャーに相談してください。便が硬くなりやすい場合は、水分や食事の見直しもあわせて進めていきましょう。



