
高齢者が介護を受けるようになると、排便のトラブルが増えていきます。特に多くの方が悩む便秘は、水分や食物繊維の摂取不足、運動量の低下などが原因となりやすく、根本的な改善が求められます。
さらに、在宅介護ではあまり意識されない要因のひとつに「排便時の姿勢」があります。適切な姿勢をとることで排便をスムーズにすることができるため、この点を見直すことも重要です。
この記事でわかること
- スッキリ排便には3つの力が必要
- スッキリ排便に必要な姿勢
- スッキリ排便の決め手は足の位置
スッキリ排便するための3つの条件
便が硬くなると、「出そうで出ない」と感じることがあり、長時間トイレにこもることも珍しくありません。
こうした状況を防ぎ、スッキリした排便を維持するためには、次の3つの条件が重要です。
1つ目の条件:排便に必要な3つの力
スッキリした排便のためには、「3つの力」を活用することが重要です。
【1つ目の力:便を動かす大腸の力】
大腸は蠕動運動(ぜんどううんどう)を行い、便を直腸へ移動させます。この動きは食事をきっかけに活発になり、特に朝食後に便意を感じるのは、この反射によるものです。
しかし、活動量が減り、寝ている時間が長い生活では、蠕動運動が弱まりやすくなります。また、刺激性下剤を長期間使用すると、大腸の動きが低下する原因になることもあります。
Memo
刺激性下剤として知られるのが、センノシドとビサコジルです。
- センノシドは、植物由来の成分で腸を刺激し、排便を促します。
- ビサコジルは、化学合成された薬剤で、大腸の動きを活発にします。
どちらも便秘の解消に役立ちますが、適切な使用が重要です。長期間の服用は腸の自然な働きを弱める可能性があるため、慎重に利用する必要があります。

【2つ目の力:重力の力】
便は重力の影響を受けながら移動します。便座に腰掛けた姿勢では、便が自然に下へ移動しやすくなりますが、寝た状態で排便をすると、肛門が便のたまる直腸より高い位置にくるため、便を持ち上げる必要が生じます。
このように、重力を考慮すると、寝たままの排便は身体に負担がかかることがわかります。
【3つ目の力:いきむ力】
尿は特に力を入れなくても排せつできますが、便は直腸に外から圧力をかけることでスムーズに排せつされます。適度に柔らかい便であれば軽く腹筋を使うだけで排せつできますが、便秘などで便が硬くなった場合には、さらに「いきむ」力が必要になります。
この「いきむ力」は、便を肛門に向かって押し出すための重要な力となります。

2つ目の条件:座った姿勢で前かがみ
スムーズな排便のために重要なのが、「前かがみの姿勢」です。
【効果的な排便のための姿勢】
排便を助ける「蠕動運動」「重力」「いきむ力」を最大限に発揮するためには、トイレ(またはポータブルトイレ)の便座に座り、前かがみの姿勢をとることが効果的です。この姿勢をとることで、直腸から肛門への通り道が開き、ほぼ真っすぐな位置になります。その結果、重力の助けを受けて排便がスムーズになります。
さらに、前かがみになると腹部の臓器が下がり、自然な腹圧が生じます。いきむことで、この腹圧がさらに強まり、排便を助ける役割を果たします。

【姿勢による排便の違い】
背中が垂直の状態や猫背のまま踏ん張ると、力が直腸や肛門にうまく伝わらず、排便しにくくなります。そのため、排便時は 背筋を伸ばして前かがみ(前傾姿勢)になり、踏ん張ること が重要です。こうすることで、腹圧が高まり、排便がスムーズになります。
【姿勢をサポートする工夫】
最近では、前かがみの姿勢をサポートする補助手すりも販売されています(種類はまだ多くありません)。また、少し硬めのクッションを抱えることで、前傾姿勢を安定させるのに役立ちます。
適切な姿勢を意識することで、排便の負担を減らし、より快適な生活につながります。
3つ目の条件:踏ん張れる足の位置
スッキリ排便するためには、「足の位置」も重要なポイントです。
【正しい足の位置で踏ん張る】
足を開き、足底を床にしっかりつけることで、踏ん張る動作がしやすくなります。もし足が床に届かない場合は、足元に台を置くなどの工夫をすることで、適切な排便姿勢を維持しやすくなります。
【寝た姿勢での排便の問題点】
一方で、寝たままの姿勢では足をしっかり固定できず、踏ん張ることが難しくなります。
ベッドで横になった状態で排便する高齢者の多くは、足をベッド柵に押し付けたり、マットレスを踏み込んだり、柵を握りしめたりして踏ん張ろうとします。しかし、このような姿勢では十分な圧力がかからず、スムーズな排便が難しくなることがあります。
足の位置を適切に調整することで、排便の負担を軽減し、より快適に過ごすことができます。ちょっとした姿勢の工夫が、大きな違いにつながります。
寝たままの排便はデメリットが多い
これまでの説明をまとめると、寝たままの状態で排便をする場合、以下の問題が生じます。
- 大大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が弱まりやすくなる
- 肛門が直腸より高い位置にあるため、便を重力に逆らって持ち上げる必要がある
- いきむ力や踏ん張る力が弱まり、十分な腹圧をかけにくくなる
寝たままオムツなどに排便をすると、腹圧や重力をうまく活用できず、便をすべて出し切ることが難しくなります。理想的な排便は、トイレやポータブルトイレに座って行うこと です。座ることで重力や腹圧を活かしやすくなり、排便がスムーズになります。
しかし、トイレへの移乗が介護者にとって負担となる場合は、介護保険サービスの活用 を検討しましょう。訪問介護(ホームヘルパー)やデイサービスを利用すると、専門の介護スタッフによる適切なサポートを受けることができ、排便の負担を軽減できます。
介護の負担を減らしつつ、排便環境を改善することで、高齢者の健康と快適さを守ることができます。適切な支援を活用しながら、排便しやすい環境づくりを目指しましょう。

Memo
排せつは自律神経と深く関係しているため、プライバシーが守られた個室など、リラックスできる環境がとても重要です。落ち着いた空間であれば、自然と排便しやすくなります。
また、「トイレに行く」という行動そのものも排便を促す要因になります。下着を下ろして便座に座ることで、脳が「排せつの準備が整った」と認識し、排便の指令を出しやすくなるのです。
まとめ
在宅介護において意外と見落とされがちなのが排便時の姿勢です。適切な姿勢をとることで排便の負担を軽減し、よりスッキリと排便できるようになります。
排便しやすい環境を整えることで、介護を受ける人の健康を守るだけでなく、介護者の負担も減らすことができます。日々の生活の中で姿勢や生活習慣の改善を意識し、排便をサポートする工夫を取り入れていくことが大切です。
毎日の生活がよりスッキリと快適になるよう、できることから取り組んでいきましょう。