
「今日も寝不足のまま出勤しなければならない」
「職場で急な呼び出しがあったらどうしよう」——
一人っ子・独身の場合、介護を分担してくれるきょうだいがおらず、すべてを一人で抱え込む「ワンオペ介護」になりやすいという特有の事情があります。乗り越える鍵は、無理を重ねることではなく「仕組みを変えること」です。
14年間ケアマネジャーとして現場を見てきた立場から、共倒れを防ぐための具体策をお伝えします。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。仕事を続けながら一人で親を介護する方の相談では、最初の相談先とサービスの組み方が、その後の働き方を大きく左右しました。この記事では、両立のための具体的な仕組みをまとめています。
この記事でわかること
- ワンオペ介護とは何か、一人っ子・独身が苦しくなりやすい理由
- 最初に頼れる相談先「地域包括支援センター」
- 仕事と両立するための介護保険サービスの使い方
- 介護休業の本当の使い道
- プロに任せる部分と、自分が担う部分の分け方
- 万が一に備えて、今からできること
ワンオペ介護とは?──まず、今の状況を正しく知る

「ワンオペ介護」とは、家族の中で自分ひとりだけが親の介護をすべて背負っている状態を指します。ワンオペ育児と同じ構造ですが、介護には終わりの見えない期間と、体力を要する身体介助が伴う分、負担はより深刻化しやすいという特徴があります。
とりわけ負担が一人に集中しやすいのが、「一人っ子だから」「きょうだいがいても遠方に住んでいる、あるいは非協力的だから」という理由で、最初から選択肢なく一人で担わざるを得ない立場の方です。
「一人っ子」「きょうだいの協力が得られない」ケースが特に苦しい理由
兄弟姉妹がいる家庭であれば、たとえ負担が均等でなくても「役割を分担する」「愚痴を言い合う」相手がいます。しかし一人っ子や、きょうだいが非協力的なケースでは、判断も、実務も、精神的な負担も、すべてが一人に集中します。
「自分が音を上げたら、この人を支える人が誰もいなくなる」——この責任の重さこそが、一般的なワンオペ介護よりもさらに強いプレッシャーとしてのしかかります。
一人に負担が集中しやすい社会の変化
少子高齢化や未婚率の上昇、そして「近くに頼れる家族がいない」という家庭環境の変化により、一人に介護の負担が集中する構造は、社会全体で広がっています。
まず必要なのは、「今の状況は個人の頑張りだけでは支えきれない限界にある」と正しく認識すること。それが、仕組みで乗り越えるための出発点になります。
一人で抱えるほど、心身も仕事も追い詰められていく
家事と介護のすべてを一人で担うワンオペ介護では、心身への負荷が休む間もなく蓄積していきます。相談できるきょうだいがいれば「今日だけ代わって」と頼める場面でも、一人っ子や非協力的なきょうだいしかいない場合は、その選択肢自体が存在しません。
身体的な影響
トイレ介助や移乗などの力仕事、さらに夜間対応による慢性的な睡眠不足がエネルギーを奪います。代わってくれる人がいないため、休息のタイミングそのものを作れず、疲労は回復しないまま蓄積していきます。
精神的な影響
認知症などで「目が離せない」状況は心理的な拘束感が強く、知らず知らずのうちに心のゆとりを奪います。愚痴を言い合えるきょうだいがいない分、その負担を一人で抱え込みやすいのもこのケースの特徴です。
心身の消耗が続くと、気分が晴れない状態から「介護うつ」につながるおそれもあります。一人ですべてを担うこと自体に、無理があるのです。
そして、夜間の対応が続けば、仕事のパフォーマンス低下は避けられません。こうした心身の限界や、仕事との両立が困難な環境に追い込まれ、結果として「介護離職」を選択する人は年間約10万人にのぼります。
頼れる家族がいないケースでは、離職は「介護の担い手を失う」ことにも直結しかねず、経済的な不安を招くだけでなく、介護生活そのものをさらに厳しくする悪循環を生んでしまいます。
仕事とワンオペ介護を両立させる「5つの仕組み」

相談できるきょうだいがいない場合こそ、仕組みで負担を分けることが大切です。今の生活を維持し、共倒れを防ぐために、次の5つのポイントを意識してみてください。
ポイント1:まずは介護相談の入り口「地域包括支援センター」へ
介護の負担を一人で抱えないための第一歩は、お住まいの地域の「地域包括支援センター」に相談することです。ここは、介護保険の申請やサービスの調整をトータルで支えてくれる介護相談の総合窓口です。相談する家族が他にいなくても、ここが「最初の味方」になってくれます。
MEMO
地域包括支援センター
自治体が設置する窓口。社会福祉士などの専門職が申請を代行してくれます。公平性を保つ立場のため特定のケアマネジャーを紹介することはできませんが、居宅介護支援事業所の一覧を渡してもらえるので、そこから自分に合ったケアマネジャーを探すことができます。
ケアマネジャー
要介護(要支援)認定後、一緒に具体的な介護計画(ケアプラン)を作ります。サービス事業者との調整も担う、最も身近なパートナーです。
窓口で「ワンオペ状態で限界が近い」ことを正直に伝え、要介護認定などの手続きを進めることで、のちに実務を担うケアマネジャーへとスムーズにバトンを繋ぐことができます。
きょうだいがいれば自然に共有される情報も、一人で担う場合はすべて自分から発信しないと誰にも伝わりません。窓口に「自分しかいない」ことを最初に伝えておくのが重要です。
ポイント2:介護保険サービスを「最大限」に活用する
仕事と両立するためには、自分で行う介護を最小限にし、プロの力を借りる「割り切り」が必要です。とくにきょうだいの手を借りられない場合、この「割り切り」ができるかどうかが、共倒れを防げるかの分かれ目になります。
- 訪問介護(ホームヘルプ)
仕事での不在時や忙しい時間帯の介助を依頼します。同居家族がいる場合は、同居者の役割とされる一般的な家事(掃除・洗濯・調理など)にはサービスが適用されないルールがある点に注意し、ケアマネジャーと相談して支援範囲を定めましょう。一人暮らしの親を遠方から見ている場合は、このルールの対象外になるケースも多いため、諦める前に一度ケアマネジャーに確認することをおすすめします。
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仕事で家を空ける時間帯など、介護保険のサービスだけでは対応しきれない部分は、イチロウのような自費の訪問介護サービスで補うという選択肢もあります。
- 通所介護(デイサービス)
日帰りの施設に通うことで、日中の安全・安心を得ることができます。仕事が土日休みの場合は、あえて土日営業の施設を選び、自身の休息や家事に充てる「自分のための時間」を確保することも大切です。
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
数日から1週間程度、施設へ入居するサービスです。仕事の繁忙期や自身の体調不良時はもちろん、介護者の心身をリフレッシュさせる「計画的な休息(レスパイト)」を目的とした活用も、共倒れを防ぐためには欠かせない選択肢の一つです。
交代してくれるきょうだいがいない場合こそ、この「休息のための入所」を計画的に組み込む発想が欠かせません。
実例アドバイス
私が担当したある認知症の方のケースでは、ご本人の負担がないことを確認した上で、月1回の通院以外は毎日デイサービスを利用していました。認知症による「一人で過ごすことへの不安」や「火の不始末などのリスク」を、デイサービスの利用でカバーすることで、介護者は仕事を中断することなく、安定した在宅生活を維持することができました。
ポイント3:介護休業制度を「介護に専念するため」に使わない
介護休業などの制度は「育児・介護休業法」によって定められており、一定の条件を満たせば、勤務先の就業規則に明記されていなくても、労働者の「権利」として取得できます。
具体的には、「介護を理由とした休業の取得」を会社は拒否できず、それを理由に解雇や降格といった不利益な扱いをすることも法律で禁じられています。
ただし、使い道には注意が必要です。介護休業は「自分が介護に専念するための休み」ではなく、「仕事と介護を両立できる体制(仕組み)を整えるための休み」と考えてください。
休業期間中にケアマネジャーと連携してプロの手を借りる体制を構築し、スムーズに復職できる環境を作ることが本来の目的です。きょうだいと交代で休みを分け合えない以上、この限られた休業期間で「体制」までどれだけ作り込めるかが、その後の働き方を左右します。
ポイント4:介護のプロには「頼る・任せる・依存する」でいい
「親の介護は家族がすべて担うべき」という考えを貫くのは、現代の社会構造では非常に困難です。自分一人で解決しようとせず、プロの力を借りて「健全に依存する」という考え方を持ちましょう。きょうだいに分担できない分、その「依存先」をプロに置き換えるイメージです。
ここで言う「健全に依存する」とは、「手」が必要なことはプロに任せ、自分は「心」のケアに集中することです。
プロの役割(手)
食事や入浴、排泄の介助、日中の見守りなど、体力と技術を要する実務
あなたの役割(心)
親との会話、体調の変化への気づき、そして「これからの生活」を一緒に決めること
すべてを抱え込むと、余裕がなくなって親に優しく接することができなくなります。実務をプロに任せることで、あなたは「介護者」という役割から、本来の「息子・娘」という立場に戻ることができます。
ポイント5:自分自身の生活を「最優先」に設計する
介護を生活の中心に置くのではなく、まず「自分の生活と仕事」という基盤があり、その上に介護を組み込むという視点を持ってください。
- 「万が一」に備えた選択肢の確保
将来的に在宅継続が難しくなる可能性に備え、施設情報などを早めにケアマネジャーから得ておきましょう。いざというときの逃げ道を持っておくことが、今の生活を続ける「心のゆとり」になります。
- テクノロジーの導入
見守りカメラやスマートフォンのGPS、ICTを活用した関係者連絡ツールなどを積極的に取り入れましょう。不在時の不安を減らすことが、仕事への集中力を維持し、生活の質を保つ助けとなります。
よくある質問
家族の中で自分ひとりだけが親の介護をすべて背負っている状態を指します。育児における「ワンオペ育児」と同じ構造ですが、介護には終わりの見えない期間が伴う分、負担がより深刻化しやすいという特徴があります。
まずは地域包括支援センターに「きょうだいの協力が得られない」ことを正直に伝えましょう。家族内で解決しようとせず、ケアマネジャーを交えて第三者として関わってもらうことで、感情的な対立を避けながら支援体制を組み立てやすくなります。
「両立できない=離職」と考える前に、介護保険サービスの利用範囲を見直し、ケアマネジャーに勤務状況を伝えて調整してもらいましょう。介護休業も「体制を整えるための休み」として活用でき、退職以外の選択肢は複数あります。
夜間対応が続くと疲労が蓄積し続けてしまいます。デイサービスやショートステイをケアプランに組み込み、意識的に休息のタイミングを作ることが大切です。一人で抱え込まず、早めにケアマネジャーへ相談しましょう。
実務をプロに任せると、その分、あなたは「息子・娘」として、親との会話や心のケアに集中できるようになります。役目が「介護者」から「家族」に変わる、と考えてみてください。健全にプロへ依存することが、かえって親との良好な関係を保つことにつながります。
最後に:一人で背負わず、チームで「暮らし」を守る
ワンオペ介護と仕事の両立は、精神論ではなく「仕組み」で解決すべき課題です。きょうだいがいない、頼れる家族がいないからこそ、ケアマネジャーやヘルパー、デイサービスのスタッフなど、介護のプロと一緒に親を支える体制をつくっていきましょう。それが、仕事と介護を続けていくための土台になります。
「介護の実務はプロに任せ、自分は家族としての心と自分の人生を大切にする」
この姿勢こそが、結果として親との良好な関係を保ち、あなたのキャリアを守る近道になります。一人で悩む時間を、プロに相談する時間に変えていきましょう。






