気持ちのバランス 認知症ケア

親の介護、受け入れられない気持ちをどう乗り越える?

親の体の衰えや認知症。その現実を前に、なかなか受け入れられない気持ちでいる方も多いのではないでしょうか。

「まさか自分の親が」というショック。 「どうして私だけがこんな目に」という戸惑い。 「親の弱った姿を見たくない」という拒否感。

こうした気持ちは、決して珍しいことではありません。この記事では、親の変化を受け入れられないあなたの心理に寄り添いながら、具体的な事例を交え、介護との向き合い方や役立つサポートについて解説していきます。

3年ぶりに帰省したら、家の中がゴミだらけ

離れて暮らす高齢の親のことが気になり、久しぶりに実家へ帰省したとします。もしそこで、以前とはかけ離れた親の姿や、想像もしなかった家の状況を目の当たりにしたら、あなたはどう感じるでしょうか。

急に変化した親を目の当たりにしたケース

東京に住むAさんは、3年ぶりに一人暮らしの母親のもとへ帰省しました。玄関を開けると、昼間だというのにカーテンが閉められ、少し独特な匂いが漂います。部屋には通販や新聞、雑誌が山積みで、以前はきれいに片付いていた家が、足の踏み場もないほど物で埋め尽くされていました。

また、以前は身だしなみに気を遣っていたはずの母親は、入浴もせず、服も長い間着替えていない様子でした。会話もどこかちぐはぐで、Aさんは目の前の光景に戸惑いを隠せませんでした。

「どうしてこんなことになったの?」

Aさんは呆然としながらも、混乱と苛立ちを感じました。部屋を片付けようと母親に声をかけると、「後でやるからいいの」と頑なに拒否され、その姿に「もう以前の母ではないのかもしれない」という現実を突きつけられました。

「どうして私ばかりがこんな目に遭うのだろう」

昔から厳しく、完璧主義だった母親。弱った姿など想像もしていませんでした。Aさんは「なぜ自分がこんな状況に直面しなければならないのか」という不公平感や戸惑いを抱え、母親の変化を受け入れられない自分自身にも苛立ちを募らせました。

驚きと葛藤の中、Aさんが母親を病院へ連れて行ったところ、軽度の認知症とうつ病を発症していることが分かりました。

受け入れられない、認められないのは正常な反応

親の変化を受け入れられないのは、あなたの心が冷たいからではありません。むしろ、それは親を大切に思っているからこその正常な反応です。

変化を否定したい心の防衛反応

親の「弱った姿」を見るのは、誰にとってもつらいことです。そのため、無意識のうちにその現実から目を背けようとすることがあります。現実を否定したり、怒りを感じたりするのは、あなたの心が「親のつらい状態」からあなた自身を守ろうとしている防衛反応なのです。

親の老いや病気への恐怖

親の変化は、自分自身の未来を重ね合わせ、老いや病気への恐怖心を呼び起こすことがあります。「いつか自分もこうなるのだろうか」という不安から、親の変化を認めたくないという気持ちが生まれることもあります。

戸惑っているのは本人も同じ

親の変化に戸惑っているのは、あなただけではありません。一番戸惑っているのは、変化に直面している親自身かもしれません。

自分が自分ではなくなる感覚

病気や加齢によって、以前のように体が動かない、頭がうまく働かない、気持ちが落ち込むといった変化は、本人にとって非常に大きなショックです。「なぜこんなにやる気が出ないんだろう」「前はもっとできたのに」と、自分自身に苛立ちや絶望を感じていることもあります。

孤独感と不安

元気だった頃の自分を知っている家族に対し、弱った姿を見せることに抵抗を感じている場合もあります。「心配をかけたくない」「弱音を吐きたくない」という思いから、本人は助けを求めることをためらい、孤独感を深めてしまうこともあります。

SOSのサインとしての行動

家族の目には「なぜこんなことをするんだろう」と不思議に思える行動が、実は親からのSOS(助けを求めるサイン)である場合があります。これは、本人が言葉にできない不安や寂しさ、困り事を、無意識のうちに行動で示しているケースです。

たとえば、部屋に物を溜め込んでしまう「ゴミ集め」や「物集め」と呼ばれる行動も、その一つかもしれません。人は孤独や不安を感じると、それを物で埋めようとすることがあります。外出が減り、人との交流が少なくなると、郵便物や新聞、雑誌などが、社会とのつながりを感じられる唯一のものとなり、無意識のうちに溜め込んでしまうことがあるのです。

この場合、本人にとって大切なのは「物」そのものではなく、その行動の背景にある「誰かとつながりたい」「寂しさを埋めたい」という気持ちです。物をただ捨てるのではなく、こうした心理的な背景を知り、どう寄り添うのかも併せて考えることが大切です。

受け入れられない気持ちと向き合う方法

親の変化を目の当たりにして、さまざまな感情が湧き上がり、どうしていいかわからなくなるのは当然のことです。しかし、そこから少しずつ前に進むための方法は必ずあります。まずは、あなたの心を少しでも軽くするために、できることから始めていきましょう。

お互い焦る必要はない

親の変化を前に、家族は「どうにかしなければ」と焦りがちです。しかし、焦りはかえって状況を悪化させてしまうことがあります。大切なのは、お互いの気持ちを尊重し、少しずつ前に進むことです。

無理をしない、完璧を求めない

部屋を片付けるにしても、無理に一度にやろうとせず、小さなスペースから始めるなど、できることから少しずつ進めていきましょう。そして、完璧を求めないことも大切です。「すべてをきれいにしなければ」と考えるのではなく、「転倒防止のために通路だけ片付けよう」など、安全を優先した現実的な目標を立てることも有効です。

専門家や第三者のサポートを頼る

一人で抱え込まず、地域包括支援センターのケアマネジャーや、かかりつけ医、家族会のサポートを積極的に利用しましょう。専門家のアドバイスを受けながら、親自身のペースに合わせた支援を進めていくことが、結果的に家族の負担を減らすことにもつながります。

  • ケアマネジャーが親身になってくれないと感じる時

親の状況を相談するためにケアマネジャーに連絡を取ったものの、「様子を見ましょう」と言われてしまうなど、親身に対応してもらえていないと感じることもあるかもしれません。これは、決してケアマネジャーが冷たいわけではなく、いくつかの理由が考えられます。

【介護保険制度上の制約】
ケアマネジャーは、介護保険制度の範囲内でケアプランを作成する必要があります。そのため、相談者が望むすべてのサービスをすぐに提供できるわけではありません。身体的・精神的な状態を客観的に評価し、制度の範囲内で何ができるかを慎重に判断している可能性があります。

【親御さんの「できること」を見極めている】
「様子を見ましょう」という言葉の背景には、介護を要する方の自立支援を促す意図がある場合もあります。急いで全てを代行するのではなく、親自身ができることは何かを見極め、少しずつ自信を取り戻してもらうことを優先しているのかもしれません。

  • 信頼できるケアマネジャーとの出会い方

ケアマネジャーと信頼関係を築けないと感じた場合、まずは親の状況やご自身の考えをより具体的に伝える努力をしてみましょう。それでも状況が改善されない場合は、ケアマネジャーの変更を検討することも一つの選択肢です。担当ケアマネジャーを変更したい場合は、地域包括支援センターや利用している居宅介護支援事業所の責任者に相談することができます。

体調を整えることが基本

親が「何をする気にもなれない」と感じている場合、それは心が疲れているだけでなく、体の不調が原因かもしれません。体と心は密接につながっているため、まずは体のコンディションを整えることから始めましょう。体調が安定すると、自然と気持ちにも余裕が生まれ、これまで受け入れがたかった状況も少しずつ改善し、次の行動へ動き出すきっかけになります。

  • 十分な水分補給

季節を問わず、1日1,500ml以上の水分補給を心がけましょう。体内の水分が不足すると、頭がぼんやりしたり、意欲が低下したりします。家族が本人に「何かしてほしい」と思っても、水分不足ではなかなか行動に移せません。甘い飲み物ばかりにならないよう注意し、医師から水分制限の指示が出ていなければ、積極的に水分を摂るように促しましょう。

  • 下剤に頼らない排便コントロール

服用している薬の中には、便秘を誘発するものがあります。かといって、下剤に頼りすぎると排便コントロールが難しくなり、心身の負担になることも。気持ちの良い自然な排便を促すためにも、医師や薬剤師に相談しながら、下剤に頼りすぎない対策を検討しましょう。

  • 栄養バランスの取れた食事

食事は体調の基本です。水分をしっかり摂りつつ、食物繊維やたんぱく質が十分に摂れる食事を意識するだけで、体調は整いやすくなります。必要なエネルギーを摂取し続けることは、体を動かすためにも重要です。食事が十分摂れていない、偏りがある場合は、栄養補助飲料やゼリー飲料を取り入れるのも良いでしょう。調理が難しい場合は、バランスの取れた配食サービスや冷凍弁当の活用も有効です。

  • 適度な運動

体力や意欲の低下で外出が難しい場合は、家の中でできる簡単な体操や運動機器を取り入れてみましょう。無理のない範囲で少しずつ体を動かすことで、体力が向上し、自然と気持ちが外に向いていくことがあります。まずは小さな変化から見守り、焦らずに続けましょう。

最後に

親の変化を受け入れるのは簡単なことではありません。しかし、変化を理解することはできるかもしれません。これまでとは違う形で親と向き合うための大切な一歩だと考え、体調を整えることから始めてみてください。

焦らず、少しずつ、親の状態と向き合いましょう。そして、あなた自身の気持ちも大切にしながら、無理のない範囲で支援を続けていくことが、最終的にはお互いの幸せにつながります。

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