
「ビジネスケアラー」という言葉を最近よく見聞きするようになったけれど、自分もその一人なのか、実際どう向き合えばいいのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。
ビジネスケアラーとは、仕事(ビジネス)をしながら家族などの介護(ケア)をする人のことです。少子化と人口減少が続くわが国では、ビジネスケアラーは年々増加しており、介護を行う本人だけでなく、勤務先である企業にとっても無視できない社会課題となっています。
この記事では、元ケアマネジャーの視点から、介護離職の現状とデメリット、ビジネスケアラーが抱えやすい悩み、そして仕事を辞めないために意識したい3つの必須ポイントを解説します。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。企業向けの両立支援セミナーも担当しています。辞める前に知っておきたい介護離職の現状と、防ぐポイントをまとめました。
この記事でわかること
- 介護離職とは何か、年間約10万人の現状
- ビジネスケアラーが増えている背景と、抱えやすい悩み
- 介護離職のデメリット
- 仕事を辞めないための3つのマスト
介護離職とは
介護離職とは、家族の介護を理由に、それまで働いていた仕事を辞めることです。経済産業省によると、介護離職者は毎年約10万人にのぼります。
働きながら介護をする「ビジネスケアラー」も年々増えており、介護離職は、誰にとっても他人事ではありません。
出典:経済産業省ヘルスケア産業課「経済産業省における介護分野の取組について」(2024年2月)
ビジネスケアラーが増えている背景
仕事と介護を両立するビジネスケアラーは年々増えており、経済産業省の推計では、2025年に約307万人、2030年には約318万人に達すると見込まれています。

出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(2024年3月)をもとに作成
仕事と介護の両立の難しさや介護離職による経済損失は、2030年に約9兆1,792億円になると推計されています。
ビジネスケアラーが増えている要因はいくつか考えられます。
- 超高齢社会
2025年に「団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となり、介護問題はさらに深刻化していきます。
ビジネスケアラーの増加は、社会全体の高齢化が密接に関連しています。
- 共働き世帯の増加
以前はサラリーマンの夫と専業主婦という組み合わせが目立ちましたが、現在では夫婦のどちらかが家事に専念する家庭は減少しました。
介護をする場合も仕事と両立することが当たり前となり、ビジネスケアラーが増加しているのです。
- 独身者が増えている
近年、未婚率と離婚率が高まり、独身者が増加しています。独身であると親に介護が必要となっても、一緒に関わってもらえるパートナーがいません。独身者の増加もビジネスケアラーが増えている要因になっています。
ビジネスケアラーが抱える悩み
介護負担はそれぞれの家庭によって多様であり、どのくらいの期間続くか予測することも難しいです。病気の悪化や転倒などのトラブルで、急に介護負担が大きくなることもあり、ビジネスケアラーにとっては仕事とのバランスに大きな悩みを抱えてしまいます。
肉体的・精神的に疲弊する
仕事と介護の両立者は仕事以外の時間で介護をしなくてはなりません。帰宅後や休日などの時間を介護に費やすためリフレッシュができず、身体も気持ちも疲れきってしまいます。
場合によっては睡眠時間が削られることもあり、介護者自身の体調を崩してしまうこともあります。

仕事への意欲に影響を及ぼす
介護に疲弊していくと、仕事への意欲や熱意が低下していく可能性が高まります。
介護を始めてからの期間(介護中の場合は経過期間)は、平均で約4年7か月というデータがあります。4年以上続いている人は約4割で、長期間に及ぶことを見込んでおく必要があります。
出典:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」(2人以上世帯)
仕事と介護の両立期間が長くなるほど、仕事に対する意欲を持ち続けることは難しくなります。
介護離職に振り切れてしまう
ビジネスケアラーの中には「職場に迷惑をかけたくない」「気遣わせたくない」といった思いから、介護をしていることを誰にも相談しないケースも少なくありません。
責任感が強い人ほど仕事と介護との両立が難しくなり、結果として介護離職してしまうのです。
ケアマネ目線メモ
介護離職を考えている方の中には、まだ誰にも相談していない方が少なくありません。辞めるかどうかを決める前に、地域包括支援センターや会社の人事部に、「仕事を続けたい」と一度伝えてみてください。選べる道が、意外と残っています。
介護離職のデメリット
介護離職は、介護の負担から一時的に解放されても、その後の生活への影響が長引きやすい選択です。
- 収入の減少:給与がなくなり、貯蓄や親の年金に頼る生活になりやすくなります。
- 社会保険の負担:会社の健康保険・厚生年金から外れるため、国民健康保険・国民年金などへの切り替えが必要になり、保険料の負担が変わります。
- 在職中の支援が使えない:介護休業給付金など、働いている間に使える制度が受けられなくなります。
- 再就職とキャリア:介護が終わった後、再就職までの空白期間が生じ、積み上げたキャリアが途切れることがあります。
介護離職しないための3つのマスト
仕事も介護もどちらも大切です。そして、自分自身の生活もより良くしていくことも諦めたくはありません。そのために、意識していきたい3つのマスト(必須)を参考にしてみてください。
MUSTその1:仕事と介護の両立支援制度を利用する
仕事と介護の両立を支援する法律として「育児・介護休業法」があります。「介護休業」や「介護休暇」などの制度を利用して、仕事と介護を両立できるような体制づくりをしましょう。
介護離職には、収入やキャリアの面でデメリットがあります。育児・介護休業法は、要件を満たす働く人が利用できる制度です。介護離職する前に、制度を活用しましょう。
MUSTその2:介護保険サービスを利用する
仕事と介護を両立するためには、介護保険サービスの利用が必須となります。現代は高齢者を支える現役世代の人数が大幅に減少しているため、家族だけで介護を行うことは困難な時代です。
介護の悩みや不安は「地域包括支援センター」でいつでも相談できます。適切な介護保険サービスが利用できるようにしましょう。
MUSTその3:自分自身を大切にする
介護に専念するあまり、自分自身が「休めない」状況に陥らないよう注意することが大切です。仕事と介護が生活の全てにならないように、適度に心も体も休息できる時間を確保しましょう。
介護保険サービスはレスパイトケアとして、介護家族が休息できるような支援も必要と位置づけています。
MEMO
レスパイトケア
在宅介護を行う家族に対して、計画的に、あるいは緊急で、一時的にケアを代行し、休息を取ってもらう支援です。ショートステイやデイサービスなどが使われます。
レスパイトケア中は何をしても構いません。ストレス解消のための運動、気分転換のための外出や旅行、飲み会やリラックスするための時間としても良いのです。積極的にサービスを利用し、自分自身の生活を豊かにする時間を作っていきましょう。

よくある質問
家族の介護を理由に、それまで働いていた仕事を辞めることです。経済産業省によると、介護離職者は毎年約10万人にのぼります。働きながら介護をするビジネスケアラーも増えており、他人事ではありません。
仕事(ビジネス)をしながら、家族などの介護(ケア)をする人のことです。経済産業省の推計では、2025年に約307万人、2030年には約318万人に達する見込みです。
収入がなくなる、会社の社会保険から外れて保険料の負担が変わる、介護休業給付金など在職中の支援が使えなくなる、再就職までに空白期間ができる、といったデメリットがあります。
育児・介護休業法の制度を使う、介護保険サービスを利用する、自分の休息の時間を確保する、の3つが基本です。一人で抱え込まず、地域包括支援センターや会社の人事部に、早めに相談しましょう。
まずは会社の人事部や上司に、制度を使って働き続けたいと伝えます。介護の悩みは、地域包括支援センターでもいつでも相談できます。辞めるかどうかは、相談したあとで決めても遅くありません。
まとめ
介護離職は、収入やキャリアの面でデメリットが大きい選択です。
育児・介護休業法や介護保険サービスは、法律により定められた制度です。これらの制度を活用し、「家族介護を行う自分自身をマネジメント」するという発想を持ちましょう。
ビジネスケアラーとなり、忙しさに追われ「介護に振り回される」生活に陥らないように意識するだけでも、状況は変化していきます。仕事も介護も自身の時間も大切にする、そんな欲張りな生活が実現できることを目指しましょう。

