
「昨日は穏やかだったのに、今日は急に怒り出す」
「午前中は動けていたのに、夕方になると足もとがふらついて危なっかしい」
こうした「時間帯や日によって生じる症状の激しい変動」にどう対応すべきか悩み、心身ともに疲れ果ててはいないでしょうか。実は、こうした症状の背景に、認知症だけでなく、脱水が隠れていることがあります。
私はケアマネジャーとして14年、多くの在宅介護の現場を見てきました。現場では、1日の水分量を整えることで、不穏な行動が落ち着いたり、立ち上がりや歩行が安定したりする高齢者に、少なからず出会ってきました。もちろん、原因は人によって異なります。
水分不足は、体と心にどのような影響を与えるのか。段階ごとの目安とあわせて解説します。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。水分不足は、認知症の症状と見分けにくく、見過ごされがちです。気づくためのサインと、続けやすい工夫をまとめました。
この記事でわかること
- 高齢者の体が水分不足になりやすい理由
- 水分不足の段階ごとのサインと、認知症との見分け方
- 急に様子が変わる「せん妄」との関係
- 1日1,500mlの水分補給を無理なく続ける工夫
高齢者の体は「常にカラカラ」という事実
若い人の体は約60%が水分ですが、高齢になると筋肉量の減少に伴い、貯水能力が低下して約50%まで減少します。
体重50kgの方であれば、体内の水分量はわずか25リットル。ここから1日の「出入り」を計算すると、綱渡りのようなバランスで生活していることがわかります。


この「飲み物1,500ml」の不足に加え、食欲が落ちて食事の摂取量が減ることも、脱水を加速させる大きな原因となります。こうして体内の水分がわずか1〜2%減るだけで、脳や体の機能に狂いが生じ、「認知症が悪化した」と見間違えるような混乱や不調を引き起こしてしまうのです。
⚠ 注意
心不全や腎機能の低下などで、医師から「水分制限」の指示が出ている方は、この記事の水分量の目安をそのまま当てはめず、必ず主治医の指示に従ってください。
体内の水分が減ると、どうなる?

以下の段階別の症状は、私の現場での経験と、竹内孝仁氏の水分ケアの考え方を参考にまとめた目安です。割合は体内の水分量に対するもので、症状の出方には個人差があります。
たった数百ミリリットルの不足が、具体的にどのような不調を招くのか。段階別に見ていきましょう。
1~2%の水分が減少して起こること
(体重50kgの方なら、コップ1〜2杯分:250〜500mlの不足)
わずかな量に思えますが、高齢者の体にとっては大きな変化です。血液の濃度が上がり、脳へ酸素が届きにくくなることで、心身の機能に影響が出始めます。
- 認知症の場合
脳の血流不足による「頭がすっきりしない不快感」が、理由のないイライラや感情の爆発として現れます。落ち着きを失って不穏な状態になり、周囲を困惑させる行動が目立ち始めます。
2~3%の水分が減少して起こること
(体重50kgの方なら、500〜750mlの不足)
体の中から熱を逃がすための水分が足りなくなり、まるでお風呂でのぼせたときのように、体の中に熱がこもった状態になります。
- 認知症の場合
脱水によって意識がぼんやりすると、さらに認知力が低下してしまいます。その結果、物事を理解し、判断することがより難しくなります。周囲の介助(着替えや排泄介助など)を「攻撃」と誤解しやすくなり、強い拒否や激しい言動など、パニックに近い状態に陥ることがあります。
5%の水分が減少して起こること
(体重50kgの方なら、1,250mlの不足)
筋肉や神経をスムーズに動かすための水分が枯渇し、身体のコントロールが効かなくなります。
- 認知症の場合
動作のふらつきに加えて混乱も深まるため、転倒や骨折のリスクが非常に高い、極めて危険な状態です。
7%の水分が減少して起こること
(体重50kgの方なら、1,750mlの不足)
脳細胞が正常に機能できなくなる限界に近い状態です。
- 認知症の場合
興奮を伴う「せん妄」状態になることがあります。理性が失われているため、必要な水分補給すら拒否してしまい、さらに脱水が悪化するという負のループに陥りやすくなります。
10%の水分が減少して起こること
(体重50kgの方なら、2,500mlの不足)
体内の水分が10%失われると、腎機能の低下など、臓器の働きに障害が生じ、命に関わる非常に危険な状態になることがあります。
⚠ 注意
重い脱水は、命に関わります。高齢者は、のどの渇きを感じにくいうえ、最初に意識がぼんやりするため、自分から助けを呼べないまま悪化することがあります。夏の暑い時期は、特に注意が必要です。
急に様子が変わったら「せん妄」かもしれません
せん妄とは、時間や場所が急にわからなくなるなど、注意力や思考力が急に低下する状態です。イライラや興奮、幻覚を伴うこともあり、1日の中で症状に強弱があり、夕方に悪化しやすい傾向があります。高齢者では、脱水のほか、便秘、尿路感染症、睡眠不足などがきっかけになります。
認知症とよく似ていますが、せん妄は「急に始まる」のが特徴です。通常は数日間で治まりますが、原因が続くと長引くことがあります。水分不足で意識がぼんやりしたり、判断力が落ちたりしているときは、水分補給で意識がはっきりし、症状がやわらぐことがあります。
「昨日までと様子が違う」と感じたら、認知症の進行と決めつけず、脱水などの原因がないか、確認してみましょう。発熱・嘔吐・下痢がある、水分が摂れない(摂らない)、ぼんやりして反応が鈍いといった場合は、脱水だけと決めつけず、早めにかかりつけ医に相談してください。
実例アドバイス
担当した80代女性のAさんは、夕方の興奮と介護拒否が強く、ご家族が限界を感じていました。飲水量を測ると、1日わずか600ml。起床時や毎食後、入浴前後、寝る前にコップ1杯(150ml)ずつ飲む習慣をつけ、お茶を拒むときは寒天ゼリーで補い、1,500mlまで増やしました。2週間後には、夕方の興奮が落ち着き、動作も安定して、ご家族と笑顔で話せるようになりました。
どうしても「水やお茶」が進まない時の工夫

「1,500mlも飲めない」という時は、飲み物だけでなく、形を変えて取り入れてみましょう。
- つるんとした食感で補給
寒天ゼリーやところてんは、そのほとんどが水分です。同時に食物繊維も摂れるため、脱水による便秘を防ぐのにも一役買います。
- 「好きなもの」を優先する
「体に良いもの」を無理に勧めるより、サイダーやコーヒー、ジュースなど、ご本人が昔から好きだった味を楽しみとして取り入れましょう(※糖分の摂りすぎには注意が必要です)。
- 「経口補水液」を賢く使う
効率よく水分が吸収されるよう調整された飲料です。「最近あまり食べていない」「急に認知症の症状がひどくなった」など、脱水が疑われる際の心強い味方になります。
※塩分が含まれるため、腎臓などの持病がある方は、必ず事前に医師へ相談してください。
⚠ 注意
心不全や腎機能の低下などにより、医師から「水分制限」の指示が出ている方は、必ず主治医の指示に従って摂取量を調整してください。
よくある質問
加齢で体に水分をためておく量が減り、のどの渇きも感じにくくなるためです。トイレを気にして水分を控えたり、食事量が減ったりすることもあり、特別な病気がなくても、暑さなどで容易に水分不足になります。
初期は、だるさ、ぼんやり、集中力の低下、イライラなどが出ます。進むと、ふらつきや発熱、意識の混濁が現れることがあり、重い場合は命に関わります。「いつもと違う」と感じたら、早めに対応しましょう。
見分けは難しいため、まず水分不足がないかを確認します。急に様子が変わった、夕方に悪化する、ぼんやりして反応が鈍いといった場合は、脱水やせん妄の可能性があります。早めに医師へ相談してください。
食事に含まれる水分などを除き、飲み物で約1,500mlが目安です。起床時や毎食後、寝る前にコップ1杯ずつ飲むと続けやすくなります。ただし、心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、必ず主治医の指示に従ってください。
1回の量を少なくして回数を増やし、好きな味の飲み物や、寒天ゼリーなどの食べる水分を活用します。無理強いはせず、飲み込みに不安がある場合は、医師や歯科医に相談してください。
まとめ:水分補給は「最高の介護技術」である
「水を飲むだけ」と思われがちですが、脱水を防ぐことは、次のような点で日々のケアを支えます。
- 不穏な行動の抑制: 脳の血流不足による不快感を取り除く。
- 動作の安定: 筋肉と神経の連携をスムーズにし、ふらつきを抑える。
- 便秘の解消: 便秘による腹痛や不快感からくる不穏を防ぐ。
- 口腔の機能を維持: 口の中の潤いを保ち、飲み込みやすくして、誤嚥を防ぐ助けになる。
認知症の症状だと思い込んでいた「困った行動」の中には、水分不足が関わっているものもあります。まずは今日から、「あとコップ2杯」増やす工夫から始めてみませんか?
参考文献:
・竹内孝仁『家族で治そう認知症』(年友企画、2008年)
・高齢者の脱水症|健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)
・せん妄|健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)




