認知症ケア

認知症の「困った症状」は、体のメンテナンスで落ち着く可能性があります

2024年3月31日

認知症の介護で、毎日が限界だと感じていませんか?
「怒りっぽくなった」「夜中に歩き回る」といった症状は、実は「脳の病気」だけでなく、「体の仕組み(生理)」がうまく回っていないことで起きている場合が多くあります。

この記事では、体内の循環を整え、穏やかな生活を取り戻すための指針となる「4つの基本ケア」を解説します。

  • 1日の水分摂取量:1,500ml
  • 1日の食事摂取量:1,500kcal
  • 便秘の解消(定期的な排便)
  • 1日2km程度のウォーキング(または30分程度の運動)

Memo

この手法は「自立支援介護」と呼ばれ、多くの介護施設で「認知症の症状改善」「おむつに頼らない生活」「歩行の再獲得」などの成果を上げています。本記事では、この専門的なケアを、ご家庭でも無理なく取り入れられる方法にまとめました。

なぜこの4つの項目を整えるだけで症状が落ち着くのか、具体的に確認していきましょう。

※最後に「4つの基本ケア」が家庭でも行える実践シートをダウンロードすることができます。

水分のケア(目標:1日1,500ml)

4つの基本ケアの中でも、最も即効性があり、最初に取り組むべきなのが「水分」です。どれほど食事や運動に気を配っても、水分が不足している状態では体内の仕組みが正しく機能しません。まずは、このケアを最優先に進めていきましょう。

1. なぜ必要なのか(体の仕組み)

人間の体内の水分率は、年齢とともに低下していきます。成人は約60%ですが、高齢者は水を蓄えるための筋肉が減ってしまうため、約50%まで落ちてしまいます。

世代別体内の水分蓄積量は赤ちゃんが80%、成人が60%、高齢者が50%を示す図。

さらに知っておいていただきたいのが、私たちの体では毎日、意識しなくても大量の水分が入れ替わっているということです。

健康を維持するためには「出入り(バランス)」を一定に保つ必要があります。食事から摂れる水分は約1,000mlほどですので、差し引きすると「飲み物として1,500ml」を補給しない限り、体は毎日少しずつ干上がってしまう計算になります。

体内の水分が保たれると、血液がサラサラになり、全身の巡りが良くなります。特に脳は、体内でもっとも血液(酸素と栄養)を必要とする組織です。

しっかりと水分を摂って脳に十分なエネルギーが届くようになると、周囲の状況を正しく認識する力が保たれ、結果として精神的な安定につながるのです。

2. 不足するとどうなるのか(症状との関係)

蓄える力が弱い高齢者にとって、わずかな水分不足は大きな問題です。
体内の水分がわずか1%(体重50kgの人で約250ml、ペットボトル半分の量)足りなくなるだけで、脳の神経伝達が滞り、意識がぼんやりしてしまいます。

ご家族を悩ませる「急に怒り出す」「夕方にソワソワして落ち着かなくなる」といった症状の多くは、この意識レベルの低下による混乱が引き金となっています。

水分不足が原因で起こります

3. 家庭で実践するコツ(具体的な方法)

具体的なアクションは、以下の3ステップです。

  • 容量を知る
    普段使っているマグカップや湯呑みの容量を計量カップなどで一度測ってみましょう。
  • 現状を把握する
    1日に「実際に飲んでいる量」を記録します。目標の1,500mlまで「あと何杯足りないか」を明確にします。
  • スケジュールを立てる
    不足分を補うために、飲むタイミングを生活の中に配置します。

一気に飲ませようとせず、「起床時」「食事の前後」「おやつ」「入浴の前後」など、コップ半分ずつでも小まめに勧めることで、無理なく目標量に近づけることができます。

1回の飲水が200mlなら1日に8回摂取すれば1,600mlになることを説明した図。

実践時のポイント

  • 何が「飲み物」?
    お茶やコーヒーなど、コップで飲むものは何でもOKです。ただし、味噌汁やスープは「食事の水分」として計算するため、飲み物には含めません。
  • 糖尿病や利尿剤を使用中の方
    尿の量が増えやすいため、少し多めの「1,800ml」が目安になります。

日々の生活が安定し、スケジュール通りの水分が摂れていれば、記録をやめても大丈夫です。落ち着かない症状(周辺症状)が増えるようでしたら再開してみましょう。

持病がある場合
心不全や腎機能の低下などで「水分制限」がある方は、必ず主治医に相談してください。

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食事のケア(目標:1日1,500kcal)

水分が整ってきたら、次は「エネルギー」の確保です。しっかり食べることは、認知症の症状を改善し、落ち着かない状態を軽減するための絶対条件です。

1. なぜ必要なのか(体の仕組み)

食事は、脳を動かす直接のエネルギー源です。また、私たちの感情を穏やかに保つ「脳内の伝達物質(セロトニンなど)」は、食事から摂るたんぱく質などを材料にして作られます。

必要なエネルギーが満たされることで体力がつき日中の活動量が増えるため、夜に自然な眠気が訪れるという「生活の質の改善」につながります。

不足するとどうなるのか(症状との関係)

最も警戒すべきは、栄養が足りていない「低栄養」の状態です。これには、以下の2つの大きなリスクが隠れています。

  • 脳への影響(水分の不足)

食事が減ることで「食事由来の水分」も不足します。その結果、脳の血行が悪くなり、意識レベルの低下や症状の悪化を招きます。

  • 身体への影響(エネルギーの不足)

エネルギーが足りないと、体は筋肉を削って補おうとするため足腰が弱まります。動くのが億劫になり、寝る時間が増えることで昼夜逆転を招くなど、さらに症状が落ち着かなくなるという悪循環に陥ります。

3. 家庭で実践するコツ(具体的な方法)

目標量を目指すための工夫として、以下の3つのステップを参考にしてください。

  • 現状の把握
    まずは1日の摂取エネルギーを大まかに測ります。市販品の表示を確認したり、主食・主菜・副菜が揃っているかチェックしましょう。
  • 配食サービスの活用
    一定期間、カロリー計算されたお弁当を1日1食取り入れると、確実に目標量へ近づけることができます。
  • 少量・多回数の工夫
    一度に多く食べられない場合は、高栄養なゼリーやおやつを使い、1日のトータルで目標量に届くよう回数を分けます。無理に一度で完食させようとせず、本人の負担を減らす工夫を優先しましょう。

便秘のケア(定期的な排便)

認知症の落ち着かない症状(周辺症状)が「ときどき」強く表れる人は便秘が関連しているかもしれません。「便秘」は、認知症の方にとって最大のストレス源と言っても過言ではありません。

1. なぜ必要なのか(体の仕組み)

「脳と腸」は、神経を通じて強くつながっています(脳腸相関)。お腹がスッキリして腸の環境が整うと、脳の興奮が収まり、穏やかな時間が増えます。自然な排便を促すことは、心の安定に直結するケアなのです。

2. 便が滞ることで起こる問題(症状との関係)

出口(直腸)に便が溜まってお腹が圧迫され続けると、その不快な刺激が脳を常に「興奮モード」にしてしまいます。本人は「お腹が苦しい」と言葉にできないため、以下のような症状として現れることがあります。

  • 精神面の変化
    大声を上げる、暴れる、常にソワソワして落ち着かない
  • 生活リズムの変化
    不快感による不眠、食欲の低下

排便があるだけで、それまでの不穏な状態が嘘のように落ち着くケースも少なくありません。

排便のこと、もっと知りたい方はこちら!

Memo:下剤による悪影響と課題

「便が出ないから下剤を飲む」という習慣には、以下のようなリスクが潜んでいます。安易な服用は避け、主治医と相談しながら「自然な排便」を目指すことが大切です。

  • 排便力の低下:腸が薬の刺激に慣れてしまい、自ら動く力が弱まります。その結果「下剤を服用しないと便秘になる」という依存状態に陥ります。
  • コントロールの困難さ:毎日服用していても数日に1回しか出なかったり、逆に効きすぎて下痢を起こしたりと、排便のリズムが不安定になります。
  • 生活への支障:夜中や外出中など、予期しないタイミングで大量に排便してしまうことがあり、本人と家族の心身の大きな負担になります。
  • 脱水のリスク:下痢になると、せっかく摂った水分が排出されてしまいます。これは脳への血行悪化を招き、認知症の症状を悪化させる要因となります。

やむなく下剤を服用する場合 服用する際は、たっぷりの水分(コップ1〜2杯程度)と一緒に飲むようにしてください。水分が不足した状態で下剤を飲むと、便が十分に柔らかくならず、効果が半減したり腹痛を招いたりすることがあります。

家庭で実践するコツ(具体的な方法)

便秘薬に頼り切るのではなく、生活習慣の中で「腸が動く条件」を整えることが近道です。

  • 「水分」と「運動」の相乗効果

十分な水分で便を柔らかくし、歩くことで腸に物理的な刺激を与えます。

  • 朝一番の「水」でスイッチを入れる

起きてすぐにコップ1杯の水を飲むと、胃腸が目覚めて動き出しやすくなります。

  • 食物繊維で便の量を増やす

イモ、根菜、海藻などを積極的に取りましょう。食事で足りない場合は、粉末の食物繊維や寒天の活用も良い方法です。

  • 「リズム」を作って腸を動かす

腸は生活リズムに敏感です。水分を摂って日中の意識がはっきりすると、自律神経が整い、腸も動きやすくなります。さらに「毎日決まった時間にトイレへ座る」習慣をつけることで、体は排便のリズムを取り戻していきます。

運動のケア|1日2km程度歩くがBEST

最後に、これまで取り組んできた「水分・食事・排便」のすべてを体全体へ循環させるための、「ポンプ」の役割を果たすのが運動です。

1. なぜ必要なのか(体の仕組み)

歩くことは、足の筋肉をポンプのように動かし、脳に新鮮な血液を送り込む作業です。また、外を歩いて日光を浴びることは、脳の「昼と夜の切り替えスイッチ(メラトニンの調整)」を正しく入れる役割も果たします。

2. 動かないことで起こる問題(症状との関係)

日中の活動がないと、脳は「今は昼だ」という認識ができず、夜になっても眠気がきません。その結果、以下のような悪循環を招きます。

  • 生活リズムの崩れ
    昼夜逆転が起こり、夜間の徘徊や落ち着きのなさに直結します。
  • 他のケアへの悪影響
    動かないことで腸の動きが鈍くなり便秘が進むほか、お腹が空かず食事量も減ってしまいます。

3. 家庭で実践するコツ(具体的な方法)

「2km」という数字を目標にしすぎず、まずは「日常生活の中で動く機会を増やす」ことから始めましょう。

  • 介護保険サービスを賢く活用する
    デイサービスやデイケアを利用し、日中の「歩く機会」をスケジュールに組み込みます。
  • 専門職に相談し、目標を共有する
    現在、車椅子生活などで歩いていない状況であれば、「歩行器で歩くこと」を最初の目標としてケアマネジャーに相談してください。専門職の意見を聞きながら、安全に配慮した計画を立てていくことが大切です。
  • 「ついで」に動く
    トイレに行く、着替える、食卓へ移動するといった日常の何気ない動作も、大切な運動の機会として捉えます。

記録で見える「改善の兆し」

家庭での介護は、多くの場合、十分な準備期間がないままスタートします。「自分のやり方が正しいのか」「本当に良くなっているのか」という不安を抱え、ゴールの見えない日々を過ごされている方も少なくありません。

今回ご紹介した「4つの基本ケア」の最大の利点は、数値として「ケアの見える化」ができることです。

なぜ「記録」が大切なのか

認知症の症状は日によって波があるため、主観的な印象だけでは、改善の兆しを見落としてしまいがちです。しかし、水分量や歩行距離、排便の有無を記録し続けることで、以下のことが明確になります。

  • 因果関係の把握
    「水分が1,500ml摂れた日は、夜の不穏が少なかった」といった、症状とケアの相関関係に気づけます。
  • ケアの軌道修正
    うまくいかなかった際も、「何が足りなかったのか」を客観的に振り返り、次の一手を検討できます。
  • 自信と安心感
    改善が数値で裏付けられることで、介護を「手探り」から「根拠のある確信」へと変えていくことができます。

まずは、1日の様子を書き留めることから始めてみてください。記録が積み重なるほど、ご本人にとって最適な生活リズムが見えてくるはずです。

実践シートのダウンロードはこちらから(パソコンからのみダウンロードできます)

まとめ

認知症のケアは、特別な技術以上に「当たり前の生活」を整えることが一番の近道です。
「飲み、食べ、出し、動く」
この4つの循環を整えることで、本人の穏やかな表情と、あなた自身の生活を守ることにつながります。

まずは今日、コップ1杯の水分を多めに勧めることから始めてみませんか。

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