
要介護(要支援)認定を申請すると、市区町村の調査員による「認定調査」が行われます。初めて調査に立ち会うご家族にとって、「何を聞かれるのか」「どう準備すれば正しく状態を伝えられるのか」がわからないことは大きな不安要素です。
納得のいく判定結果を得るためには、当日の振る舞い以上に「調査員がどこを見ているか」を知り、事前に情報を整理しておくことが重要になります。14年以上、自治体の委託を受けて認定調査員として現場を回ってきた私自身の経験から、実態を正確に調査員へ伝え、適切な介護保険サービス利用につなげるための具体的なポイントを解説します。
この記事でわかること
- 介護認定調査の具体的な流れと確認項目
- 調査員がチェックしている「日頃の生活のズレ」
- 実態を正確に伝えるための事前準備と当日の対応策
介護認定調査を受けるまでの流れ

介護保険サービスを利用するためには、自治体の窓口で申請を行い、訪問調査を経て「要介護(要支援)」の判定を受ける必要があります。
どんな人が訪問調査をするの?
申請から通常1~2週間以内に、認定調査が行われます。訪問するのは、自治体の職員、または自治体から指定を受けた調査専門の機関や、現場経験の豊富な「介護支援専門員(ケアマネジャー)」です。
調査日はどう決まるの?
申請書に記載された連絡先へ、訪問調査員から電話が入ります。ご家族の立ち会いを希望する場合は、その旨を申請時に伝えておくことで、家族のスケジュールに合わせた日程調整が可能です。
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調査に立ち会うご家族が勤務されている場合、「育児・介護休業法」に基づき介護休暇を取得できます。1日単位だけでなく時間単位(中抜き)での取得も可能なため、調査の時間に合わせて柔軟に活用してください。
調査対象者が入院・入所している場合
入院中や施設入所中の場合でも調査は可能です。ただし、病状が不安定な時期は正確な判定が出にくいため、退院の目途が立ち、リハビリ等の状況が安定したタイミングで行うのが一般的です。
急な予定で日程を変えたい場合
本人の体調不良や、立ち会う家族の急な予定変更などで都合が悪くなった場合は、速やかに訪問調査員へ連絡してください。調査員は1日に数件の訪問を抱えている場合もあり、早めの連絡が再調整をスムーズにします。最初の電話連絡の際に、調査員の名前と直通の連絡先をメモしておくと安心です。
介護認定調査に向けた「3つの事前準備」

調査当日に緊張して伝え漏れが出るのを防ぐため、以下の3点を書面などにまとめておくことを推奨します。
- 病歴と治療の経過
原因となっている病名、手術の時期、現在の服薬状況、通院頻度を整理しておきます。
- 直近1ヶ月の具体的な困りごと
「歩行が不安定」といった表現ではなく、「夜間のトイレ時に壁を伝わないと歩けない」「週に1回は自宅内で転倒している」など、具体的な頻度と状況を記します。
- 認知症に伴う行動の記録
「同じものを何度も買ってくる」「火の不始末があった」「夜間に外に出ようとした」など、安全に関わる事象を日付と共に記録しておくと、調査員が「特記事項」として正確に記載しやすくなります。
介護認定調査で確認される74項目

調査は、全国共通の「認定調査票」に基づき、74の基本調査項目と、個別の状況を記す「特記事項」で構成されます。所要時間は30分から1時間程度です。
5つの基本調査項目
調査員は、以下のカテゴリーに沿って「介助の手間」を確認します。
- 身体機能・起居動作:寝返り、歩行、視力・聴力など。
- 生活機能:食事、排泄、着替え、入浴など日常の動作。
- 認知機能:生年月日や場所の理解、短期記憶の有無など。
- 精神・行動障害:同じ話の反復、介護への抵抗、外出して戻れないなど。
- 社会生活への適応:薬の服用、金銭管理、簡単な調理の可否など。
調査当日に注意したい5ポイント

認定調査に立ち会ってきた経験をもとに、注意点を整理しました。
1. 玄関に入った瞬間から調査は始まっている
調査員は、家の中に入る際や室内の様子からも、生活の状況を静かに観察しています。
【事例】
玄関の上がり框(かまち)をどう昇り降りしているか、廊下に手すりが必要な状態か、あるいはお部屋の片付けや衛生管理が無理なく行えているか、など。
【アドバイス】
これらは「あら探し」ではなく、「生活の不自由さ(=助けが必要なサイン)」を客観的に把握するためのものです。無理に片付けたりせず、ありのままの環境で迎えることが、実態に即した判定に繋がります。
2.「できる」という回答と実態の乖離
高齢者の方は、初対面の調査員に対し「しっかりした自分を見せたい」という心理が働き、普段できていないことでも「問題ない」と答える傾向が強いです。
【よくある事例】
実際には家族が薬の準備や確認をしているのに、本人が「薬の管理は自分で間違えずにできている」と回答してしまうケース。
【対応】
本人の回答をその場で否定すると自尊心を傷つけます。調査員には「本人は自分でやりたいという意欲を持っていますが、実際には飲み忘れがあるため、現在は家族が薬をセットして確認しています」というように、客観的な事実を「補足」する形で伝えてください。
3. 緊張感から、普段できないことが「できてしまう」
調査当日は適度な緊張や集中力の影響で、普段は困難な動作や受け答えが、その時だけスムーズにできてしまうことがよくあります。
【事例】
普段は生年月日を答えられないのに当日は完璧に答えられた、あるいは家具に掴まらないと歩けないのに何事もなく数メートル歩けてしまった、など。
【対応】
調査員は「その瞬間の動作」だけでなく「日頃の頻度」を確認します。「今日はできましたが、普段は足がおぼつかず週に数回は転倒しかけています」と、日常の平均的な状態を具体的に補足してください。
4. 本人の自尊心への配慮(別室での相談)
調査では「できないこと」に焦点を当てるため、内容によっては本人の精神的な負担になることがあります。
【よくある事例】
排せつの失敗や認知症による徘徊(はいかい)など、本人にとって「恥ずかしい」と感じる症状について、家族が目の前で詳しく説明してしまうケース。これを聞いた本人が深く傷つき、その後の介護拒否を招く恐れがあります。
【対応】
本人の前で言いづらい内容は、あらかじめメモを渡しておくのが効果的です。また、調査の最後に「玄関先で少し補足させてください」と伝え、本人のいない場所で話す時間を設けてもらうよう調査員に依頼することもできます。こうした配慮をお願いすれば、調査員は状況を汲み取って柔軟に対応してくれます。
5. 困りごとは「特記事項」に残してもらう
本人や家族が抱えている切実な不安は、遠慮せずに伝えましょう。これらは調査員が書く「特記事項」に含まれ、審査会で最終判断を下す際の重要な判断材料になります。
【事例】
「認知症の父を一人にしておけず、夜間に外出して迷子になることが直近1ヶ月で4〜5回あった。その対応で仕事を休む頻度が増えている」など。
【アドバイス】
具体的な数字(頻度や回数)を交えて伝えることで、介護の負担度が客観的に伝わりやすくなります。判定を重くしようと大げさに話すのではなく、「事実に基づく困りごと」を冷静に伝えることが最も大切です。
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どうしても家族が立ち会えないときは?
遠方や仕事で同席できない場合は、事前に自治体へ相談し、調査後に電話で聞き取り(補足)をしてもらうことが可能です。すでにケアマネジャーがついているなら、調査に立ち会ってもらえるか相談してみましょう。
調査の最後に「わからないこと」を聞いておく

調査が終わった後、結果が出るまでの1ヶ月間を不安な気持ちで過ごされる方は少なくありません。せっかく専門家が目の前にいる機会ですので、もし今抱えている不安や、今後のことで分からないことがあれば、遠慮せずにその場で聞いておきましょう。
- 急いでサービスを使いたい場合の相談先
「結果が出るまで待てない」「すぐにでも助けがほしい」という状況であれば、まずはどこに相談すべきか(地域包括支援センターなど)を確認しておくと安心です。
- ケアマネジャーの探し方
「そもそもケアマネジャーをどう探せばいいのか」「近隣の事業所リストはもらえるのか」など、次のステップへの入り口についてアドバイスをもらっておきましょう。
- 介護全般の悩みや制度の疑問
調査員は地域の介護事情にも詳しいため、わかる範囲で相談に乗ってくれます。些細なことでも、今の不安を口にしてみることで、今後の見通しが立ちやすくなります。
審査判定と認定結果の通知
訪問調査が終わると、その内容をもとに審査が行われ、結果は郵送で通知されます。
審査判定の流れ
【一次判定】(コンピュータ判定)
訪問調査の結果を数値化し、介護にかかる時間を推計します。
【二次判定】(介護認定審査会)
一次判定の結果と、主治医の意見書、調査員の「特記事項」をもとに、保健・医療・福祉の専門家が最終的な区分を決定します。
認定結果の通知
判定結果は「要支援1・2」「要介護1〜5」「非該当」のいずれかとなり、介護保険被保険者証と共に郵送されます。通知が届くまでの目安は、申請から約30日ほどです。
まとめ
要介護(要支援)認定調査について、事例を交えながら解説しました。
適切な判定が出ないことは、必要なサービスが受けられず、結果としてご家族の負担増に直結します。また、この調査は「今の親の状態」を客観的に把握できる貴重な機会でもあります。
現状に合った判定結果を得るためには、特に初回は家族の立ち会いが不可欠です。本人の自尊心を守りつつ、正確な生活実態を伝えるために、できる限り都合をつけて同席するようにしましょう。
【この記事の参考文献・公的根拠】 本記事は、厚生労働省の「要介護認定」に基づき、現場での実務経験を交えて作成しています。

