
母親の介護を息子が行う場合、親子ならではの関係を活かしながらも、適度な距離を保つことが重要です。母親は息子に対して安心感を抱きやすい一方で、遠慮が生じたり、役割の変化に戸惑うこともあります。そのため、母と息子の関係性を理解しつつ、精神的な不安や身体的なケアにどう向き合うかを考えることが求められます。
ここでは、息子が母親を介護するときのメリットと注意点について詳しく解説します。
【はじめに】
この記事では、息子さんが母親の介護を担う際の一般的な傾向や考えられる点に触れています。親子関係や個々の状況は様々ですので、全てに当てはまるわけではありません。ご自身の状況に合わせて、情報の一つとしてお役立ていただければ幸いです。
母親の介護を息子が行うメリット

息子が母親の介護を行う場合、比較的穏やかな関係を築きやすい傾向があります。そのため、母親の気持ちに寄り添った、心の通った支援につながりやすいのが特徴です。
優しい関係が築きやすい
母親と息子の関係は、幼少期から続く絆があるため、介護の場面でも自然な優しさが保たれやすいです。母親は息子のために何かをしてあげたいという気持ちが強く、それが介護を受ける際の心理的な支えにもなります。一方で、息子も幼いころから母親に世話をされてきた経験があるため、介護をすることに強い抵抗を感じにくい傾向があります。
「息子がそばにいてくれるだけで安心する」という母親の言葉は少なくありません。特に一人暮らしの母親にとっては、孤独感の軽減や将来への不安を和らげる効果が期待できます。
母親が息子の世話を焼こうと、しっかりすることがある
母親は息子に迷惑をかけたくないという気持ちから、自立しようと努力することがあります。例えば、できる限り家事を続けたり、身の回りのことを自分で管理しようとする姿勢が見られます。
【事例1】
車で15分ほどの距離に暮らす息子さんは、仕事帰りに母親の家に立ち寄り、夕食を食べてから自分の家に帰る生活を続けていました。要介護1の母親は何とか調理ができており、毎晩息子のために食事を作ることで「まだ息子の役に立てている」という気持ちを保っていました。息子さんは買い物や片付け、書類整理などを手伝い、特に介護の意識を持つことなく、自然にこの生活が続いていました。
こうした行動は介護する側にもプラスに働き、息子は「母は頑張っている」と感じることで介護のモチベーションを保ちやすくなります。
ただし、母親が無理をしすぎると、かえって体調を崩すこともあるため、注意深く見守ることが大切です。家事を続けることが負担になっていないか、体力的に厳しくなっていないかを確認しながら、適度なサポートを提案することで、母親の自立を尊重しつつ、必要な介護を行うことができます。
体力的な介助における安心感と頼もしさ
男性は一般的に力があるため、母親の身体を支える移乗介助や入浴、体位変換といった力を要する場面で、お互い安心感を得やすいという大きな利点があります。
ただし、適切な介護技術を身につけていないと介護者自身が腰痛などを発症することもあるため、力任せに行わないよう注意が必要です。介護者の腰痛リスクを減らすためには、福祉用具の導入や専門職による介助方法の指導を検討することも重要です。
息子が母親を介護する際の注意点

介護を進めるうえで、息子は母親との関係性の変化や心理的な負担に直面することがあります。息子だからこそできる介護の形がある一方で、母親が遠慮してしまったり、息子自身が精神的に追い込まれてしまったりすることも少なくありません。
母親の気持ちを尊重しながらも、介護をする側の負担を過度に増やさないようバランスを取ることが大切です。ここでは、息子が母親を介護する際に気をつけたいポイントを整理します。
母親が遠慮してしまう(無理をし過ぎる)
息子に迷惑をかけたくないという気持ちから、母親が必要な介護をお願いしづらくなることがあります。例えば、体調が悪くても無理をしてしまったり、本当に困っているときに助けを求めるのをためらうことがあるのです。こうした遠慮が続くと、母親の健康状態が悪化してしまう可能性もあるため、息子は「気軽に頼っていいんだよ」と伝えながら、無理をし過ぎていないかをよく観察していく必要があります。
身の回りの世話が行き届かないことがある
男性が介護を担当すると、家事の細やかなサポートが難しくなることがあります。例えば、衣類の管理や掃除、食事の準備などが十分に行き届かないケースも少なくありません。
【事例2】
息子さんは、母親がデイサービスへ行く際の身支度を手伝っています。しかし、毎回ゴムが伸びきったズボンを履かせてしまうため、歩行器で歩くとズボンがずり落ちてしまいます。さらに、伸縮性のない衣類を選ぶことが多く、着脱のしにくさも問題になっています。デイサービスの職員が何度か衣類を変えるようお願いしましたが、なかなか改善されていません。
家事や身の回りの世話の経験が少ないと、適切な対応方法が分からず戸惑うこともあります。そのような場合は、ケアマネジャーなど介護の専門家に相談しながら、母親が快適に過ごせる環境を整えていくことが大切です。
排せつの世話がお互いストレスになる
母親が息子に排せつの介助を頼むことに抵抗を感じる場合があり、息子も「どのように接したら良いか」困惑することがあります」。特に女性は尿道が短いため感染症を起こしやすく、排せつ後のケアには慎重な対応が必要です。
その他、入浴介助、更衣といった母親の身体に直接触れるケアについても、親子であっても双方に強い羞恥心や心理的抵抗感が生じやすいです。この問題は介護の質や精神的負担に大きく影響するため、双方の尊厳を守るための細心の配慮と工夫が求められます。
母親の変化を受け入れられない
母親が以前とは違う姿になることに息子が戸惑うことがあります。昔の母親と比較し、ショックを受けたり気持ちの整理がつかないこともあるでしょう。しかし、母親自身も変化に戸惑っていることを理解することも重要です。
特に母親が認知症になると状況が一変することが多く、息子は変化を受け入れないことに加え、自分自身の仕事や生活を介護に費やす時間が増える可能性も大きく、そのことで葛藤が生まれます。
仕事との両立の困難さとキャリアへの影響
働き盛りの世代にとって、母親の介護と仕事の両立は大きな課題です。仕事と介護の両立が困難になると、遅刻や急な欠勤が増える場合もあり、介護者のストレスが過大になりがちです。このような状態が続くと、母親に対し強い言動が出てしまったり、親子の関係が悪化したりする可能性もあります。
仕事と介護の両立が難しくなると、介護のために仕事を辞めざるを得ない「介護離職」に追い込まれることも少なくありません。介護離職は、収入面での負担が増すだけでなく、これまで築いてきたキャリアの継続が難しくなることにも繋がります。
息子が母親の介護を続けるために大切なポイント

介護を長く続けるためには、一人で抱え込まず、適切な支援を活用しながら進めることが重要です。母親との関係を大切にしながら、無理なく介護を続けるためのポイントを紹介します。
Point1:デリケートなケアは外部へ
排泄介助や入浴介助など、異性間のケアに抵抗がある場合は無理をせず、訪問介護(ホームヘルパー)やデイサービスを利用するなど、介護保険サービスを積極的に活用しましょう。これは母親の尊厳を守ると同時に、介護者自身の精神的な負担を軽減するためにも非常に重要です。専門職の介入は、介護トラブルのリスクを軽減し、適切なケアを提供するために不可欠です。
Point2:一人で抱え込まない
介護の悩みやストレスを一人で抱え込まないことも重要です。家族や親戚、友人に話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になることがあります。ケアマネージャーや地域包括支援センター、男性介護者の支援グループなども活用しましょう。特にケアマネジャーは、介護者が抱えるあらゆる悩みに寄り添い、適切な支援機関へと繋ぐ役割を担います。
Point3:介護と仕事のバランスを保つ
介護と仕事を両立させるためには、まず勤務先の介護休業制度をはじめ、介護休暇や短時間勤務制度などの両立支援制度を確認し、利用できる制度は積極的に活用しましょう。また、上司や同僚に状況を伝え、理解と協力を得ることも大切です。
さらに、介護保険サービスを併用することで、特に介護が始まったばかりの大変な時期を乗り越えやすくなります。ケアマネージャーと相談しながら、自分の働き方に合った最適な介護プランを検討しましょう。
Point4:自分自身の健康を大切にする
介護者が心身ともに健康であることが、質の高い介護を続けるための鍵になります。そのためには、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけましょう。
また、介護の負担を軽減し、心の余裕を保つためには「レスパイトケア(介護者の一時的休息)」がとても重要です。介護に追われすぎず、自分の時間を意識的に確保することで、無理なく介護を続けられます。介護を長く続けるためには、まずはご自身の健康を守ることを忘れないでください。
Point5:母親の自立を促す介護
母親の介護では、息子がすべてを担うのではなく、母親自身の「できること」を大切にしましょう。過度な手助けは、かえって母親の自立心を損ねてしまうことがあります。これまでの親子の役割意識にとらわれず、介護を通じて新たな関係性を築く意識が重要です。母親のできることは継続してもらい、必要な部分だけサポートするなど、お互いが無理なく、心地よく過ごせる距離感を見つけていきましょう。
最後に
介護は悩んだり立ち止まったりすることもありますが、困難な側面ばかりではありません。母親への感謝の気持ちを再認識したり、これまで気づかなかった母親の新たな一面を発見したりと、親子の絆をより深める貴重な機会ともなり得ます。
息子という立場だからこそできるサポートの形を見つけ、母親との大切な時間を、できる限り穏やかで心豊かなものにしていくことを目指しましょう。