
朝起きた瞬間から、今日の介護の段取りを考えている。食事、薬、通院の付き添い。やらなければいけないことはわかっているのに、ため息ばかり出て、気分が晴れない。正直、もうやりたくないと思う日もある――。そんな毎日が続いていませんか。
「これって介護うつなのかな」と不安になる一方で、「病院に行くほどではない」「自分が休むわけにはいかない」と、しんどさを後回しにしている方も多いと思います。でも、その「なんとなくつらい」は、心が出しているサインかもしれません。
この記事では、介護うつの手前で気づきたいサインと受診の目安、介護の負担を減らすための相談先、そして同じ立場の人と話せる場について、元ケアマネの経験をもとにお伝えします。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。介護をしている家族と話していると、「うつ」というより、ずっと気分が晴れないまま介護を続けている方が多いと感じていました。この記事では、そのしんどさに気づくサインと、ひとりで抱えないための相談先をまとめています。
この記事でわかること
- 介護うつの手前で起きやすい心の状態
- 受診を考えたいサインと、セルフチェックの方法
- 介護のつらさを相談できる窓口
- 介護の負担を減らすための具体的な方法
- 同じ立場の人と話せる場の見つけ方
⚠ 注意
この記事は、介護うつについて理解を深め、早めの相談につなげていただくための一般的な情報です。診断や治療は医師にしかできません。気になる状態が続くときは、自己判断せず、医療機関に相談してください。
介護うつの手前で起きていること

介護をしている家族のつらさは、はっきりした病気の症状として表れる前に、「なんとなく」の形で少しずつ積み重なっていきます。心の負担だけでなく、体の疲れやお金の心配も重なるため、自分でも何がつらいのかわからなくなることがあります。
気分が晴れないまま、介護が続いていく
介護をしている家族と話していると、「落ち込んでいる」というより、ずっと気分が晴れないまま、ため息まじりに介護を続けている姿が目立ちます。やらなければいけないことはわかっている。でも、できればやりたくない。それでも仕方がないから続けている――。
この状態は、本人にとっては「いつものこと」になっているので、つらさに気づきにくいのが特徴です。
終わりが見えない
子育てには、いつか手が離れる日があります。けれど介護は、この先、手がかかるようになっていく未来しか描けません。「いつまで続くのだろう」という答えのない問いを抱えたまま、毎日を過ごすことになります。
人とのつながりが細くなっていく
介護が始まると、友人と会う時間がなくなり、話題も合わなくなって、少しずつ人とのつながりが細くなっていきます。気づけば、介護の話をできる相手がほとんどいない、という家族も少なくありません。
「つらい」と言えない環境にいる
責任感が強い人ほど、「自分がやらなければ」と一人で抱え込みがちです。さらに、家族の中での立場によっては、つらさを口にすることさえ難しい環境に置かれていることもあります。
ケース1
嫁として義理の親の介護を担い、追い詰められていた方がいました。気持ちが沈んでいても、それを口にすることも、休むことも許されない。「うつになることさえ許されない」ような環境に置かれていました。
受診を考えたいサイン

「気分が晴れない」状態が長く続くと、心だけでなく、体にもサインが表れてきます。次のような状態が2週間以上続いているときは、かかりつけ医や、心療内科・メンタルクリニックに相談することを考えてみてください。
- 疲れているのに眠れない、夜中や朝早くに目が覚めてしまう
- 食欲がない、または食べすぎてしまう
- 何をしても楽しくない、好きだったことに興味がわかない
- 体がだるく、休んでも疲れが取れない
- 集中できない、物事を決められない
- 自分を責めることばかり考えてしまう
⚠ 注意
「消えてしまいたい」「いなくなりたい」という気持ちが出てきたときは、ひとりで抱えずに、すぐに誰かに相談してください。#いのちSOS(0120-061-338)は、24時間、無料で電話相談ができます。電話やSNSで相談できるほかの窓口は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」で探せます。
セルフチェックで、今の状態を知る
自分の状態を客観的に見たいときは、公的なセルフチェックを使う方法もあります。仕事と介護を両立している方は、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」で、ストレスや疲労がどのくらいたまっているかをチェックできます。
結果はあくまで目安です。気になる結果が出たときや、チェックの結果にかかわらずつらさが続くときは、次の章で紹介する相談先につなげましょう。
更年期と重なる時期は、さらに注意を
40代後半から50代は、介護と更年期が重なりやすい時期です。もともと気持ちが揺らぎやすい時期に介護の負担が加わると、心と体の不調がさらに表れやすくなります。不調の原因が介護なのか更年期なのか、自分では判断しにくいことも多いので、早めに相談しておくと安心です。
どこに相談すればいい?

つらさを相談できる先は、何に困っているかによって変わります。「体と心の不調」「気持ちを聞いてほしい」「介護の負担を減らしたい」の3つに分けて考えると、相談先を選びやすくなります。
体や心の不調は、かかりつけ医やメンタルクリニックへ
眠れない、食欲がないといった体の不調が続くときは、まずかかりつけ医に相談してみましょう。必要に応じて、心療内科やメンタルクリニックを紹介してもらえます。
「うつかもしれない」と言い出しにくい場合は、「眠れなくて困っている」「疲れが取れない」と、今いちばん困っていることから伝えれば大丈夫です。
実例アドバイス
介護を続けるうちに、夜眠れない日が続くようになった家族の方に、メンタルクリニックの受診をすすめたことがあります。
「眠れない」は、心の疲れが体に表れやすいサインのひとつです。「うつかどうか」を確かめに行くのではなく、「眠れなくて困っている」という相談として受診すると、気持ちのハードルも下がります。
気持ちを聞いてほしいときは、電話相談やカウンセリングへ
誰かに気持ちを聞いてほしいときは、公的な電話相談を使うこともできます。「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)にかけると、住んでいる地域の公的な相談窓口につながります。受付時間は地域によって違います。
家族や知り合いには話しにくい内容なら、カウンセリングを利用する方法もあります。
介護の負担そのものは、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ
つらさの原因が介護の負担にあるなら、負担そのものを減らすことが、いちばんの近道です。介護サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーに「最近つらい」「疲れがたまっている」と、そのまま伝えてみましょう。まだサービスを利用していない場合は、住んでいる地域の地域包括支援センターが相談窓口になります。
介護の負担を減らす方法

介護うつの手前のしんどさを軽くするために、いちばん効果があるのは、介護の量そのものを減らすことです。気持ちの持ち方だけで乗り切ろうとせず、仕組みで負担を減らしていきましょう。
休む時間を「予定」に入れる
介護から離れる時間は、つらくなってから作るのではなく、あらかじめ予定に入れておくことが大切です。介護保険サービスには、介護する家族が休むためにも使えるサービスがあります。
- デイサービス:日帰りで通い、食事や入浴、機能訓練などを受けられます。
- ショートステイ:施設に泊まり、数日から長いときは30日程度まで利用できます。
気持ちに余裕があるうちから、月に何日かは「介護をしない日」をつくっておくと、心のゆとりを保ちやすくなります。
ケアマネジャーに「つらい」と伝える
ケアマネジャーは、介護を受ける本人のためだけでなく、介護する家族の負担も考えてサービスを調整します。「最近眠れない」「休む時間がほしい」と伝えれば、サービスの回数を増やしたり、ショートステイを組み込んだりと、ケアプランを見直してもらえます。遠慮して言わずにいると、ケアマネジャーも家族のつらさに気づけません。
伝え方の例
「実は最近、介護で疲れがたまっていて、夜もあまり眠れていません。週に1日でも介護から離れられる日をつくれないか、相談させてください。」
介護の協力者を増やす
介護は、関わる人が多いほど一人ひとりの負担が軽くなります。兄弟姉妹や親戚にも状況を伝え、「通院の付き添いだけ」「月に1回の見守りだけ」など、具体的にお願いしてみましょう。
LINEなどで介護の様子をふだんから共有しておくと、協力をお願いしやすくなります。遠方に住んでいて手を貸せない家族には、費用の面で協力してもらう方法もあります。
自分の生活を先に決めて、介護を組み立てる
介護のある生活を、親を中心にではなく、自分を中心に組み立てる意識を持つと、介護に振り回されにくくなります。仕事や家庭、友人と会う時間、趣味の時間を先に決めて、その中でできる範囲の介護を考えます。
自分ではできない部分は、ケアマネジャーに相談して、介護保険サービスや保険外のサービスで補っていきましょう。
同じ立場の人と話せる場を持つ
介護をしている家族と話していると、「同じ立場の人と話せる場がほしい」と感じている人がとても多いことに気づきます。介護の大変さは、経験した人でないとなかなか伝わりません。だからこそ、説明しなくても「わかる」と言ってもらえる相手の存在が、心の支えになります。
ケース2
職場の異動で、担当していたご家族とお別れすることになったときのことです。最後のあいさつで、娘さんから「個人的に連絡先を教えてもらえませんか」と言われました。親の介護が始まってから友人とも疎遠になり、介護の話を本音でできる相手が、ほかにいなかったのだと思います。その気持ちはよくわかりましたが、お断りするしかなく、つらかったのを覚えています。
このように、介護が始まると人とのつながりが細くなり、話せる相手がケアマネジャーだけ、という家族も少なくありません。だからこそ、介護の外にも話せる場を持っておくことが大切です。
地域の家族会や介護者の集いに参加する
市区町村や社会福祉協議会、地域包括支援センターなどが、介護をしている家族向けの集まりや教室を開いていることがあります。同じ地域で介護をしている人と知り合えるので、地域のサービスの情報交換にも役立ちます。どこで開かれているかは、地域包括支援センターや市区町村の介護保険の窓口で聞いてみましょう。
認知症の人を介護しているなら、家族の会も
認知症の人を介護している場合は、公益社団法人「認知症の人と家族の会」のような、介護家族が中心になって活動している団体もあります。全国に支部があり、つどいや電話相談などを行っています。
オンラインで話せる場を使う
家を空けにくい人や、近所の人には話しにくい人は、オンラインのコミュニティや相談サービスを使う方法もあります。名前を出さずに参加できる場も多く、夜や空いた時間に気持ちを書き出せるのも利点です。
✓ 話した相手からのアドバイスや意見で、かえって傷ついてしまうこともあります。そう感じたときは、その場から距離を置いてかまいません。
よくある質問
診断は医師にしかできませんが、眠れない、食欲がない、何をしても楽しくないといった状態が2週間以上続くときは、相談を考える目安になります。仕事と介護を両立している方は、厚生労働省の「こころの耳」のセルフチェックも参考にできます。
大丈夫です。「うつかどうか」ではなく、「眠れない」「疲れが取れない」など、今困っていることから相談すれば十分です。つらさが大きくなる前に相談しておくほうが、介護の負担を見直すきっかけも早くつかめます。
おかしくありません。終わりの見えない介護の中で、そう感じる家族は少なくありません。その気持ちは、介護の負担が大きくなりすぎているサインです。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談して、介護の量を減らす方法を一緒に考えましょう。
まずは自分の治療と休養を優先してください。ショートステイなど、介護から離れられるサービスを、ケアマネジャーと一緒に考えましょう。介護を誰かに任せることは、親を見捨てることではありません。
「頑張って」と励ますより、「最近眠れてる?」「何か手伝えることある?」と、体の調子や具体的な手助けから声をかけてみてください。受診をすすめるときも、「眠れないなら一度相談してみたら」と、困っていることに寄り添う形のほうが受け入れられやすくなります。
「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)にかけると、住んでいる地域の公的な相談窓口につながります。介護の負担については、地域包括支援センターでも相談できます。「消えてしまいたい」と感じるときは、24時間対応の#いのちSOS(0120-061-338)に相談してください。
まとめ
介護をしている家族の多くは、「うつ」と呼ぶほどではないけれど、気分が晴れないまま毎日を過ごしています。そのしんどさは「いつものこと」になりやすく、気づいたときには心も体も疲れきっていることがあります。
しんどさに気づいたら、次の3つを思い出してください。
- 眠れない、食欲がないなどの状態が2週間以上続くときは、かかりつけ医やメンタルクリニックに相談する
- 介護の負担そのものは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに「つらい」と伝えて、減らしてもらう
- 同じ立場の人と話せる場を、介護の外にも持っておく
介護を長く続けていくためには、自分の生活を守ることが欠かせません。できるところから、介護の量を減らす相談を始めてみてください。
参考情報・相談窓口
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」(電話・SNSの相談窓口の案内)
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ - 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
https://kokoro.mhlw.go.jp/ - 公益社団法人 認知症の人と家族の会
https://www.alzheimer.or.jp/






