
「夜中に何度もトイレに起きて、本人がぐっすり眠れない」「そのたびに起こされて、家族も寝不足が続いている」——高齢者の夜間頻尿は、ご本人にとっても、介護する家族にとっても負担の大きい悩みです。認知症があると、夜中にトイレの場所がわからなくなったり、ふらついて転びそうになったりと、心配はさらに増えます。
そのため「夜のトイレを減らしたいから」と、水分を控えてしまう方も少なくありません。しかし、これは逆効果になることがあります。
この記事では、夜中のトイレが増える体の仕組みと、日中の水分・運動で夜間の尿を減らしていくケア、病気が隠れていないか確かめるための受診の目安をお伝えします。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。夜中のトイレの相談を受けたとき、最初に確認していたのは日中の水分量と過ごし方でした。この記事では、その考え方と、家でできる具体的なケアをまとめています。
この記事でわかること
- 高齢者の夜中のトイレが増える体の仕組み
- 水分を控えると逆効果になる理由
- 夜間の尿を減らす日中の水分・運動のケア
- 認知症の人の夜間頻尿で気をつけたいこと
- 受診・相談を考えたい目安
高齢になると夜のトイレが増えるのはなぜ?

寝ている間にトイレのために1回以上起きなければならず、そのことで困っている状態を、医学的には「夜間頻尿」と呼びます。1回なら珍しいことではありませんが、2回以上になると睡眠や生活への影響が大きくなるとされています。
血液の循環機能と排せつの関係
尿は、腎臓が血液から老廃物や余分な水分をこし取って作っています。
そのため、尿の量は腎臓に流れ込む血液の量と深く関係しています。血液の巡りが悪く、腎臓に届く血液が少ないと、作られる尿の量も少なくなります。
血液の循環機能は重力に影響される
人は心臓だけで全身に血液を循環させているのではなく、骨格筋も局所の血液を心臓に戻すポンプとして働いています。特に「第二の心臓」と言われる足の筋肉は重要で、重力に逆らって心臓に血液を届けています。
高齢になると筋肉がやせ、心臓も弱まることから、血液を「押し出す・吸い上げる」力が低下していきます。
さらに、日中は立ったり座ったりしている時間が長いため、重力の影響で血液や水分が下半身にたまりやすくなります。夕方になると足がむくむのは、このためです。
夜のトイレが増える理由
夜、横になると重力の影響が小さくなり、日中に足にたまっていた水分も血液に戻ってきます。そのため腎臓に流れ込む血液が増え、尿が多く作られて、尿量が増えていきます。
これが夜間頻尿の原因となります。

MEMO
夜のトイレが増える仕組み
- 尿の量は、腎臓に流れ込む血液の量で変わる
- 日中は重力の影響で血液や水分が足にたまり、腎臓に届く血液が減る
- 夜に横になると足の水分が血液に戻り、腎臓に届く血液が増えて尿が多くなる
結果、排尿回数は昼間は少なく、夜間に多くなってしまいます。
夜のトイレが増える原因はほかにもある
ここまでの仕組みは、多くの高齢者に共通する「夜に尿がたくさん作られる」タイプの原因です。ただ、夜間頻尿の原因はひとつではありません。夜間頻尿診療ガイドラインでは、主な原因として次の4つが挙げられています。
- 1日の尿の量そのものが多い(多尿):糖尿病、飲んでいる薬の影響など
- 夜の尿の量だけが多い(夜間多尿):上で説明した重力の影響、心臓の病気、加齢で夜に尿を濃くするホルモンが減ることなど
- 膀胱にためられる量が減っている:過活動膀胱、前立腺肥大症など
- 眠りが浅い(睡眠障害):目が覚めたついでにトイレに行く、いびきや睡眠時無呼吸で何度も目が覚める など
原因はひとつとは限らず、いくつか重なっていることもあります。病気が隠れている場合は治療が必要になるので、気になる症状があれば、後半の「受診・相談を考えたい目安」も確認してください。
夜間のトイレを減らすケア

では、夜間のトイレを減らすには、どのようなケアをすればよいのでしょうか?ポイントは、夜に作られる尿を減らし、そのぶん昼間のうちに尿を出せる体にしていくことです。
日中に必要な水分を摂る
体の水分が足りなくなると、意識がぼんやりし、活動性が下がっていきます。椅子に座ったままうたた寝する時間が増えたり、動くのがおっくうになったりします。日中の活動量が減ることで体は疲労せず、夜の睡眠も浅くなります。
必要な水分が摂れていると、意識がしっかりして日中の活動量が上がります。昼間に適度に体を使うことで、夜はぐっすり眠りやすくなります。
水分の目安は、食事以外で1日1,500mlです。夜のトイレが気になる場合は、1日の量は減らさずに、飲むタイミングを朝から日中に寄せましょう。夕方以降は少しずつにして、寝る前のお茶やコーヒー(カフェイン)、お酒は控え、飲むなら水や白湯、麦茶にするのがおすすめです。
⚠ 注意
心臓や腎臓の病気などで、医師から水分の量を指示されている場合は、この記事の目安よりも医師の指示を優先してください。足のむくみが急に強くなった、息切れがするといった変化があるときも、水分を増やす前にかかりつけ医に相談しましょう。
適度な運動を生活に取り入れる
日中に歩行や運動を積極的に行うことで、血液循環を活発にしていきます。腎臓への血流を増やすと、昼間のうちに老廃物を体外に排出することができるようになります。足の筋力も向上することで、血液を心臓に戻す力も強まります。
つまり、昼間の尿量を増やすことで、夜間の尿量を減らしていくのです。
体を動かすと意識がはっきりし、トイレに行きたい感覚にも気づきやすくなります。日中にメリハリのある過ごし方ができるので、認知症の方の昼夜のリズムを整えることにもつながります。
MEMO
夜間のトイレを減らすケアのポイント
- 水分は1日の量を減らさず、朝から日中に多めに摂る
- 歩く(散歩)などの運動を生活に取り入れる
認知症の人の夜間頻尿で気をつけたいこと

認知症があると、夜中に目が覚めたときに、自分がどこにいるのかわからなくなったり、トイレの場所を探して歩き回ったりすることがあります。暗い中を、寝起きのふらつく足で動くため、転倒の危険も高くなります。
夜のトイレを減らすケアと並行して、夜中に起きても安全にトイレへ行ける環境を整えておきましょう。
トイレまでの道を明るく、わかりやすくする
夜中にトイレへ迷わず行けるよう、寝室からトイレまでの道を見直します。
- 寝室からトイレまでの廊下に、人感センサー付きの足元灯をつける
- トイレの電気はつけたままにし、ドアを少し開けておく
- トイレのドアに「トイレ」と大きく書いた紙を貼る
- 通り道の床に置いた物、電気のコード、めくれやすい敷物を片づける
夜中の転倒は、水分不足でふらつきやすいときにも起こりやすくなります。日中の水分補給は、夜間の転倒予防にもつながります。
寝る部屋とトイレの距離を見直す
トイレが遠い、途中に段差がある場合は、寝室をトイレに近い部屋に移すか、ベッドのそばにポータブルトイレを置く方法もあります。
ポータブルトイレは、要介護・要支援の認定を受けていれば、介護保険の「福祉用具購入費」の支給を受けて購入できます。
MEMO
福祉用具購入費とは
ポータブルトイレや入浴用のいすなど、レンタルになじまない福祉用具を購入したときに、費用の一部が介護保険から支給される制度です。指定を受けた事業者から購入すると、1年間(4月〜翌年3月)で10万円を上限に、費用の7〜9割が支給されます(自己負担は1〜3割)。
夜用パッドは「安心のため」に使う
夜中のトイレが間に合わないことが続くと、本人も家族も、失敗が気になってますます眠れなくなります。夜の尿の量が多い時期は、夜だけ吸収量の多いパッドを併用するのも1つの方法です。
「間に合わなくても大丈夫」という安心があると、本人も家族も落ち着いて眠りやすくなります。パッドは、トイレに行くことをやめるためのものではなく、夜の不安を減らすためのものとして使いましょう。
昼と夜のトイレの回数を記録してみる(排尿日誌)

夜のトイレが気になるときは、昼と夜のトイレの様子を2〜3日記録してみましょう。こうした記録は「排尿日誌」と呼ばれ、医療機関でも夜間頻尿の原因を調べるときに使われています。
記録するのは、次のような項目です。
- 寝た時刻と起きた時刻
- トイレに行った時刻(昼と夜に分けて)
- 飲んだ水分の量と時刻
- 間に合わなかったことがあれば、その時刻
回数と時刻がわかるだけでも、夜にトイレが集中しているのか、1日を通して回数が多いのかが見えてきます。
日中の水分と活動を見直したあとも記録を続けると、ケアの効果を確かめられます。夜のトイレが減っていれば、そのケアが合っていたということです。なんとなく続けるケアより、効果が目に見えるケアのほうが、介護する側の気持ちも楽になり、長続きします。
記録は、受診するときやケアマネジャーに相談するときにも役立ちます。「夜中に何回起きるか」を言葉で伝えるより、記録を見せたほうが、状況が正確に伝わります。
受診・相談を考えたい目安
日中の水分や活動を見直しても夜のトイレが減らない場合や、次のようなサインがある場合は、病気が隠れている可能性があります。一度、かかりつけ医に相談してみましょう。
- 夜中に2回以上起きる日が続き、本人か家族が困っている
- 急にトイレに行きたくなって、我慢できないことが多い
- 尿が出にくい、勢いが弱い、出しきれていない感じがある
- 夜だけでなく昼間もトイレが多く、のどがよく渇く
- 足のむくみが強い、少し動いただけで息切れがする
- 大きないびきをかく、寝ている間に呼吸が止まっているように見える
⚠ 注意
尿が出ない、排尿のときに痛がる、尿に血が混じる、熱がある、急にトイレの回数が増えていつもと様子が違う、といった場合は、様子を見ずに早めに受診してください。
どこに相談すればいい?
まずは、ふだん通っているかかりつけ医に相談するのがおすすめです。必要に応じて、泌尿器科などの専門の医療機関を紹介してもらえます。受診のときには、前の章で紹介した記録を持っていくと、状況が伝わりやすくなります。
飲んでいる薬の中には、尿を増やす作用があるものもあります。気になる場合も、自己判断で薬をやめたりせず、医師や薬剤師に相談してください。
介護サービスを利用している場合は、ケアマネジャーにも伝えておきましょう。デイサービスでの水分補給や活動の様子を共有してもらえるので、日中のケアの見直しに役立ちます。
よくある質問
1日の量まで減らすのはおすすめしません。水分が足りないと日中ぼんやりして活動量が落ち、かえって夜の眠りが浅くなることがあります。1日の量は減らさず、朝から日中に多めに飲み、夕方以降は少しずつにしましょう。
1回なら、高齢者では珍しいことではありません。2回以上起きる日が続き、本人や家族の睡眠に影響が出ているなら、日中のケアを見直すとともに、かかりつけ医への相談も考えてよい目安です。
日中の水分と活動を整えて夜の尿を減らしながら、夜中に起きても安全にトイレへ行ける環境を整えることが大切です。足元灯をつける、トイレの電気をつけておく、ベッドの近くにポータブルトイレを置くなどの方法があります。
夜だけ吸収量の多いパッドを併用するのは、本人も家族も安心して眠るための方法として役立ちます。夜はぐっすり眠ることを優先してかまいません。ただ、昼間もパッドに頼るようになると、尿意を感じてトイレで出す習慣が弱まることがあります。昼間はできるだけトイレで出すことを大切にしましょう。
寝る前にトイレを済ませておくことは大切ですが、それだけでは減らないこともあります。夜の尿は、日中に足にたまった水分が、横になってから尿になる分が多いためです。日中に歩くなどして体を動かすことが、根本的な対策になります。
まずは、かかりつけ医に相談するのがおすすめです。必要に応じて、泌尿器科などを紹介してもらえます。昼と夜のトイレの時刻や回数を2〜3日記録して持っていくと、状況が正確に伝わります。
まとめ
夜中のトイレが心配で水分を控えると、日中の活動量が落ち、かえって夜の眠りが浅くなることがあります。高齢者の夜間頻尿を減らすポイントは、次の3つです。
- 1日の水分量は減らさず、朝から日中に多めに摂る
- 日中に歩くなどして体を動かし、昼間のうちに尿を出せる体にする
- 夜中に起きても安全にトイレへ行けるよう、明かりや通り道を整える
昼と夜のトイレの回数を記録して、効果を確かめてみましょう。日中のケアを見直しても夜のトイレが減らない場合や、痛み・血尿など気になる症状がある場合は、かかりつけ医に相談してください。
夜にまとまって眠れる日が増えると、本人も家族も、日中の過ごし方がぐっと楽になります。
参考文献
- 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会 編「夜間頻尿診療ガイドライン 第2版」(2020年)
日本泌尿器科学会 ガイドライン一覧




