
「お茶を出しても、ひと口飲んで置いたまま」「何度すすめても、なかなか減らない」――認知症の家族の水分補給に、頭を悩ませていませんか?
認知症になると、喉の渇きを感じにくくなったり、飲むこと自体を忘れてしまったりして、水分が足りなくなりがちです。水分が不足すると、意識がぼんやりしたり、落ち着かない症状が強まったりするきっかけにもなります。
ただ、「もっと飲んで」と声をかけるだけでは、なかなか量は増えません。必要なのは、飲みたくなるきっかけを作る声かけと、飲み物以外で水分をとる工夫、そして1日の量を把握する仕組みです。
この記事では、水を飲んでくれない人への声かけとすすめ方、寒天で作る「飲むゼリー」など食べる水分の工夫、1日1,500mlを無理なく達成する管理のコツをまとめました。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。「何度すすめても飲んでくれない」は、認知症介護の相談で特に多い悩みのひとつです。声かけやタイミングを少し変えるだけで、飲める量が増えることは少なくありません。現場で効果のあった工夫を中心にまとめました。
この記事でわかること
- 水を飲んでくれない人への声かけと、すすめ方の工夫
- 寒天で作る「飲むゼリー」など、食べる水分の工夫
- 1日1,500mlを無理なく達成する管理のコツ
- 「そんなに飲めるの?」「夜のトイレが増えない?」など、水分補給の不安への答え
水を飲んでくれない・拒否する人に飲ませる4つの工夫

「もっと飲んで」と何度もすすめたり、コップを口元まで運んだりすると、本人は強い不快感を覚え、かえって飲むことを嫌がるようになります。無理強いはせず、次の工夫をひとつずつ試してみましょう。
1. 声かけは「飲んで」より「一緒に飲みましょう」
「飲んでください」とお願いされると、本人にとっては「させられること」になりがちです。家族も自分の分を用意して、一緒に飲む時間を作りましょう。
- 「お茶にしましょう」「私も喉が渇いたので、一緒に飲みましょう」と誘う
- 「好きな〇〇を用意しましたよ」と、本人のために用意したことを伝える
- 食事やおやつ、散歩のあと、入浴の前後など、生活の区切りに合わせてすすめる
- 断られたら無理に続けず、少し時間をおいてから、もう一度すすめる
毎日同じタイミングですすめていると、「この時間は飲むもの」という習慣がつきやすくなります。
2. 好きな飲み物・いつもと違う飲み物を試す
昔好きだった飲み物や、普段は出していない飲み物に変えると、手が伸びることがあります。
- 冷たい麦茶やほうじ茶
- 季節の飲み物(冬のココア、夏のレモネードなど)
- いつもと違うコップや湯のみで出してみる
ジュースなどの甘い飲み物は、血糖値が急に上がり下がりし、さらに甘いものを欲しくなることがあります。楽しみとして、少量にとどめましょう。
3. 「食べる水分」を取り入れる
飲み物として飲むのが難しいときは、口に運びやすい「食べる水分」を活用しましょう。
寒天で作る「飲むゼリー」
市販の寒天ゼリーの素を、パッケージに書かれた量の2倍のお湯で溶かし、冷やし固めます。固まったら泡立て器で混ぜて形を崩すと、スプーンやストローで飲める「飲むゼリー」になります。水分と一緒に食物繊維もとれるので、便秘が気になる人にもおすすめです。
市販のゼリー飲料
今は、味や食感を工夫したおいしいゼリー飲料がたくさん販売されています。本人が好きな味を探してみましょう。
経口補水ゼリー
水より体に吸収されやすく、軽い脱水や、落ち着かない様子が見られるときの水分補給に向いています。
⚠ 注意
経口補水ゼリーを使うとき
経口補水ゼリーは、カリウムや糖分を含みます。腎臓病や糖尿病などで制限がある方は、使う前に必ず医師に相談してください。
4. 少しずつしか飲まない人は、回数を増やす
ひと口ずつしか飲まない人に、一度にたくさん飲んでもらおうとすると、かえって嫌がられます。量よりも回数を意識して、「ひと口飲んで、少ししたらまたひと口」と、こまめにすすめましょう。
家族だけでこまめにすすめるのが大変なときは、デイサービスなどの介護保険サービスに「水分をこまめにすすめてほしい」と伝えて、日中の分を任せるのも一つの方法です。
1日1,500mlを無理なく達成する管理の3ステップ

1日1,500ml以上の水分をとるには、「なんとなくすすめる」より、回数と量を決めて管理するほうが確実です。家族の負担を増やさずに続けられる方法を紹介します。
Step1:1日の回数を決める
1回の量と回数を決めておくと、1日の合計が把握しやすくなります。
| 1回の飲水量 | 1日の目標回数 | 合計飲水量 |
| 200ml(コップ1杯) | 8回 | 1,600ml |
| 150ml(湯のみ1杯程度) | 10回 | 1,500ml |
起床時、朝食、10時のお茶、昼食、15時のおやつ、夕食、入浴の前後など、生活の中で「飲む時間」を決めておくと、目標量に近づけやすくなります。
Step2:いつものカップの量を測っておく
いつも使う湯のみやマグカップに、どれくらい入るかを一度測っておきましょう。「このマグカップ1杯=250ml」とわかっていれば、「今日は6杯飲めた」と数えるだけで、1日の量が把握できます。
カレンダーやメモに、飲んだ杯数を「正」の字で書いていくだけでも十分な記録になります。デイサービスを利用している日は、連絡帳で日中に飲んだ量を教えてもらいましょう。
Step3:夕方までに多めにとる
夜のトイレが心配な場合は、日中に多めにとるよう配分しましょう。
| 時間帯 | 目安 |
|---|---|
| 起床時~17時ごろ | 1日の目標量の7~8割 |
| 夕食時~寝る前 | 残りの2~3割 |
起きてすぐのコップ1杯もおすすめです。寝ている間は水分をとらないため、朝は体の水分が不足しがちです。朝の1杯は、腸が動き出して排便のきっかけにもなります。
MEMO
夕方に落ち着かなくなる場合
夕方になると落ち着かない様子が強くなる場合は、それまでの水分が足りていない可能性があります。夕方までにとる量を増やしてみましょう。
認知症の水分補給でよくある3つの不安
1日1,500mlと聞くと、「そんなに飲めるの?」「トイレが近くならない?」と心配になる方も多いと思います。よく聞かれる3つの不安にお答えします。
1,500mlも本当に必要なの?
成人が安静にしている場合、1日にこれだけの水分が出入りしています。
出ていく水分(合計 約2,500ml)
- 尿・便:約1,600ml
- 呼吸・汗:約900ml
入ってくる水分(合計 約2,500ml)
- 食事に含まれる水分:約1,000ml
- 体の中でつくられる水分:約300ml
- 飲み水:約1,200ml
出ていった分を補えないと、脱水を起こしてしまいます。
高齢になると喉の渇きを感じにくくなり、食事の量が減ることで、食べ物からとれる水分も少なくなります。そのため介護の現場では、減った分を飲み物で補えるよう、1日1,500ml程度を目安にする考え方が広く用いられています。
水分が足りなくなると、意識がぼんやりしたり、落ち着かない様子が強まったりすることがあります。1,500mlは、こうした状態を防ぐための目安です。
食事の量が減った高齢者の場合の目安は、次の図のとおりです。

参考:環境省「『健康のため水を飲もう』推進運動」/東京都保健医療局「高齢者の水分摂取に関する資料」
※水分の出入りの数値は、成人男性が安静にしている場合の例です。東京都の資料では、飲み物からとる水分量の目安を約1,000mlとしています。記事内の1,500mlは、介護の現場で用いられている水分出納の考え方に基づく目安で、体重や活動量、健康状態によって個人差があります。
食事の前に飲むと、お腹がいっぱいにならない?
一度にたくさん飲まなければ、心配はいりません。適度な水分は意識をはっきりさせ、噛む力や唾液の出をよくするので、食事を安全にとることにもつながります。
気になる場合は、食事の直前は少なめにして、1日の合計で1,500mlを目指しましょう。
たくさん飲むと、夜のトイレが増えない?

日中にしっかり飲んでも、夜のトイレが増えるとは限りません。かえって、夜のトイレが減ることもあります。
水分が足りないと、日中も意識がぼんやりして居眠りが増え、夜の眠りが浅くなります。眠りが浅いと、少しの尿意でも目が覚めやすくなります。日中に必要な水分をとって活動的に過ごすと、夜ぐっすり眠れるようになり、トイレで起きる回数が減ることがあります。
水分補給で気をつけたいこと
水分補給は大切ですが、持病や飲んでいる薬によっては、水分の量に注意が必要な場合があります。次の2つに当てはまる場合は、目安の量を決める前に主治医に相談してください。
⚠ 注意
水分制限がある方
心臓病や腎臓病などで、医師から水分制限の指示が出ている方は、その指示に従ってください。自己判断で水分の量を増やすと、病状が悪化するおそれがあります。
⚠ 注意
利尿作用のある薬を飲んでいる方・糖尿病の方
利尿作用のある薬を飲んでいる方や糖尿病の方は、尿の量が増えて水分が失われやすくなります。一方で、病気によっては水分の量を調整する必要があります。1日にどのくらい飲めばよいかは、自己判断せず、主治医に確認してください。
飲み物を口にするとむせる場合は、飲み込む力が弱くなっているサインかもしれません。飲み込む力は、水分が不足しているときにも弱くなることがあります。
むせやすいときは、まず飲むときの姿勢や、入れ歯が合っているかを見直してみましょう。それでもむせが続く場合は無理に飲ませず、主治医やケアマネジャーに相談してください。歯科医師などの専門職につないでもらえることもあります。
よくある質問
「飲んで」とすすめるより、「お茶にしましょう」「一緒に飲みましょう」と誘うのがおすすめです。好きな飲み物に変える、いつもと違うコップで出すなど、少し変えるだけで手が伸びることもあります。断られたら、時間をおいてもう一度すすめましょう。
無理に飲ませるのは避けましょう。強くすすめるほど、飲むこと自体を嫌がるようになることがあります。飲み物が苦手な方には、寒天の飲むゼリーや市販のゼリー飲料など、「食べる水分」を試してみてください。
一度にたくさん飲んでもらおうとせず、回数を増やすことを意識しましょう。ひと口ずつでも、食事やおやつ、入浴の前後など、生活の区切りごとにすすめると1日の量が増えていきます。いつものカップで杯数を数えると、量も把握しやすくなります。
市販の寒天ゼリーの素を、パッケージに書かれた量の2倍のお湯で溶かして冷やし固め、泡立て器で崩すと「飲むゼリー」になります。水分と一緒に食物繊維もとれます。作る手間をかけたくない場合は、市販のゼリー飲料も便利です。
水分が不足すると、意識がぼんやりしたり、落ち着かない様子が強まったりすることがあります。急に様子が変わったと感じたときは、まず水分が足りているかを確認してみましょう。飲み込む力が弱くなり、むせやすくなることもあります。
日中にしっかり飲めていれば、夕方以降を少なめにしても大丈夫です。目安は、夕方までに1日の目標量の7〜8割をとる配分です。日中の水分が足りないと、かえって夜の眠りが浅くなり、トイレで目が覚めやすくなることもあります。
まとめ
水を飲んでくれないときは、「一緒に飲みましょう」と誘うことから始めて、好きな飲み物や「食べる水分」など、できる工夫から試してみましょう。1日1,500mlは、回数を決めて杯数を数えると把握しやすくなります。
次のような「いつもと違う様子」が見られたら、まずは水分不足を疑ってみてください。
- 落ち着かない様子が強くなる
- 意識がぼんやりしている
- 意欲や活動性が下がっている
- 歩き方が不安定になっている
持病や飲んでいる薬で水分の量に注意が必要な方は、主治医に相談しながら進めましょう。



