
介護が必要な方の口が、いつもポカンと開いていないでしょうか。
実は、この「口が開いたまま」の状態は単なる癖ではなく、舌を支える筋肉が衰えているサインです。放置すると、口の中が乾燥して肺炎を招いたり、持病が悪化したりするなど、全身の健康を損なう原因となります。
この記事では、高齢の方が口呼吸になる理由と、鼻が持つ「防衛機能」を取り戻すための簡単なトレーニングを紹介します。
高齢者の口呼吸:5つの大きなリスク

口呼吸が習慣になると、口の中を清潔に保つ「唾液(だえき)」が枯れてしまい、健康面にさまざまな支障をきたします。
1. 感染症(肺炎)のリスクが高まる
口の中が乾くと、細菌の繁殖を抑える唾液の力が弱まります。増殖した細菌が、飲み物などと一緒に誤って肺に入ると、高齢者にとって重篤な「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を引き起こす危険があります。
2. 歯周病の悪化と糖尿病への影響
乾燥によって歯周病菌が増えると、歯ぐきの炎症が進みます。この炎症によって生じる物質が血液に混じって全身に運ばれると、血糖値を下げるインスリンの働きを妨げ、糖尿病のコントロールを難しくさせることがわかっています。
3. 眠りの質が下がり、事故につながる
口呼吸は「睡眠時無呼吸症候群」や「いびき」を招き、眠りの質を著しく下げます。熟睡できないことで日中の集中力が落ち、ふらつきや転倒といった事故を招く可能性が高まります。
4. 認知機能への悪影響
口呼吸は、鼻呼吸に比べて脳への酸素供給の効率が低いと指摘されています。脳の活性化が妨げられることで、記憶力や判断力の低下を招き、認知症を進行させるリスクが生じます。
5. 顔の筋力低下と「飲み込む力」の衰え
口を開けたままの状態が続くと、口の周りの筋肉が緩みます。これは見た目の変化だけでなく、食べ物をしっかり噛んだり、スムーズに飲み込んだりする力(嚥下機能)の低下に直結します。
鼻呼吸が備えている「3つの防衛機能」

本来、鼻は外気を体に取り込む際の「高性能なフィルター」の役割を果たしています。
- 加湿機能: 吸い込んだ空気に適切な湿り気を与えます。
- 温度調節機能: 冷たい外気を体温に近い温かさにしてから肺に送ります。
- 浄化機能: 鼻毛や粘膜が、空気中のホコリや細菌、ウイルスを吸着して侵入を防ぎます。
口呼吸ではこのフィルターを通らず、冷たく乾いた空気が直接のどや肺に届くため、免疫力が低下しやすくなります。
なぜ口呼吸になるのか?原因は「舌の位置」

高齢者が「口がポカンと開いたまま」になる主な理由は、舌の筋力低下にあります。
舌の位置をチェックしてみよう
静止しているとき、舌の先がどこにあるかを確認してください。
- 舌全体が、上のあご(口の天井)にぴったりついている
- 舌先が、上の歯の裏にあたっている
- 舌先が、下の歯の裏にあたっている
- 舌がどこにも触れず、浮いている
正しい位置は「1」です。
2〜4に当てはまる場合は、舌を支える筋肉が弱り、重力で舌が下に落ちてしまっています。舌が下がると、呼吸の通り道を確保するために自然と口が開いてしまい、口呼吸が定着します。
鼻呼吸を習慣にするためのトレーニング

舌の筋肉を鍛え直すことで、自然と口が閉じ、鼻呼吸ができるようになります。
人は1日に約1万4000リットルもの空気を吸い、その呼吸数は2万回以上におよぶと言われています。この膨大な回数の呼吸を「口」ではなく「鼻」で行うためには、舌を支える筋力が欠かせません。
そこで、今日から取り入れたいのが、お口周りと舌の筋肉を効率よく鍛える「あいうべ体操」です。
【あいうべ体操】
あいうべ体操は、口呼吸を鼻呼吸に改善するための簡単なエクササイズです。口全体の筋肉と、舌の根元が鍛えられます。
- 「あー」:口を大きく開ける
- 「いー」:口を横に強く広げる
- 「うー」:唇を強く前に突き出す
- 「ベー」:舌を思い切り下に出す
※1文字ずつゆっくり、大きな動作で行うのがコツです。
【舌回し運動】
舌回し運動は、顔の筋肉だけでなく、飲み込みに重要な首周りの筋肉も鍛えられるエクササイズです。
- 口を閉じたまま、舌の先で歯の表面(歯ぐき)をなぞるように、10秒程度かけて円を描きます。
- 右回りに10回、左回りに10回を1セットとし、1日3セットを目安に行います。
あごに痛みがある場合は無理をせず、医師に相談してください。負担のない範囲で、毎日継続することが大切です。
【チェックしてみよう】お口の健康が整ってきたサイン
トレーニングや日々の配慮を続けるなかで、親御さんに以下のような変化が現れていないか観察してみてください。これらは口の機能が本来の形に戻り始めている、一つの目安となるものです。
- 日中、口が閉じている時間が増えた(舌の筋力が回復してきた兆候です)
- 口の中のネバつきや、口臭が軽減された(唾液の自浄作用が働き始めています)
- 食事の際、スムーズに飲み込めている(嚥下に関わる筋肉が鍛えられた結果です)
- 夜間のいびきが静かになった(舌が落ち込まず、気道が確保されています)
- 唇の乾燥が気にならなくなった(口からの呼気による乾燥が抑えられています)
- 「あいうべ体操」がスムーズにできるようになった(お口周りの動きが向上しています)
※変化の現れ方には個人差があります。まずは、ご家族のペースで焦らず観察を続けてみてください。
まとめ
高齢者の口呼吸は、単なる癖ではなく、全身の健康を左右するサインです。もし「口がポカンと開いたまま」の状態に気づいたら、肺炎や認知症を予防するためにも、早めに対策を始めましょう。
介護者の方ご自身も、もし風邪を引きやすかったり睡眠が浅かったりする場合は、同じように口呼吸になっていないか確認してみてください。
日々の生活に「あいうべ体操」などの簡単な習慣を取り入れて、大切な家族の健康を守っていきましょう。


