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【ケアマネが解説】認知症の夕暮れ症候群で「困ったらこれ」!水分補給で症状を和らげるコツ

2024年6月13日

こんなことはありませんか?

  • 夕方になると認知症の症状が悪くなる(落ち着きがなくなる)
  • 夕方になると疲れてぐったりしている
  • 午前中より午後の方が調子が悪い

日中は穏やかなのに、夕方になると認知症の症状が悪化することはありませんか?興奮状態になったり、歩き回ったりと、日が暮れる頃に落ち着きがなくなる方は「夕暮れ症候群」かもしれません。

この「夕暮れ症候群」について、10年以上ケアマネジャーとして勤めてきた筆者が、実際の事例を交えながらわかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • 夕暮れ症候群の症状
  • 夕暮れ症候群の主な原因
  • 症状が起きたときの対応、そして予防法

夕暮れ症候群とはどんな症状?

主に夕方から夜にかけて、認知症の人が不安や緊張・興奮・混乱などの症状を強く示すことを「夕暮れ症候群」と言います。
認知症の症状が興奮を伴うものになると、介護している家族も対応にとても疲れてしまいます。

いくつか事例をご紹介しましょう。

症状の例①家にいるのに「もう帰ります」と言う

認知症のAさんは、夕方になると「もうこんな時間」と言って家から出て行こうとします。夫が「ここは自分の家ですよ」と何度も説明しますが、Aさんは理解できません。
夫のことも認識できず、なぜ引き止められるのかも分からないため、次第に興奮して「なぜ私を閉じ込めるのだ?」と声を荒げます。
夫はAさんを一生懸命なだめますが、拳を振り上げようとする姿に恐怖を感じ、毎回どうしていいのか分からなくなります。

症状の例②わからなくなった、怖いと言い続ける

認知症のBさんは、夕方になると不安を強く訴えて不穏になります。
「頭がおかしくなったみたい」「何もわからない」と心配そうな顔で話しながら、仕事で不在の娘さんを探し回ります。
娘さんが見つからないとますます不安になり、「何もわからない、どうすればいいの?」「とても怖い」と泣き出してしまいます。娘さんが帰宅するまでこの症状は続き、本人もとてもつらそうです。

症状の例③お金返して!

ある介護施設に入居している認知症のCさんは、時折、お金のことが気になって「お金は大丈夫かしら」と周囲の人に話しかけます。同じ話を何度も繰り返しますが、介護スタッフが「大丈夫ですよ、ちゃんと保管してあります」と返事をすれば納得していました。
しかし、夕方頃になると疑念が徐々に強まり、介護スタッフが「大丈夫」と伝えても納得しません。興奮も相まって「盗んだのね!」「お金返して!」と詰め寄ってきます。

なぜ夕方になると症状が悪化するのか

夕暮れ症候群の原因は「環境の変化(日が陰り、暗くなる)」や、夕方になり家族が忙しくなることで「自分が迷惑になっていると感じ、不安になる」からだとよく言われています。

確かに薄暗くなることで周囲が見にくくなったり、夕食の準備などで家族が慌ただしいと、不安な気持ちが増幅することもあるでしょう。しかし、そのような環境要因だけでなく、何よりもまず考えるべきは水分不足による「認知機能の低下」です。

高齢者は脱水症を起こしやすい

高齢者は体内に蓄積できる水分量が低下しているため、常に脱水症を引き起こすリスクがあります。軽度の脱水でも血液が濃縮され、脳への血流が悪化することで認知機能が低下していきます。

認知症であれば、状況を認知する能力に影響が出て「(自分のいる)場所」や「人」が認識できなくなり、不穏な状態になっていきます。

認知症の診断がなくても、午前中は調子良く過ごせているが、午後になると徐々に不穏な状態になる場合は、脱水症を起こしている可能性も考えられます。

夕暮れ症候群の正体は「脱水」かもしれません

高齢者は以下の理由で水分不足を起こしやすくなります。

  • トイレを気にして水分を摂らなくなる
  • 感覚機能の低下で喉の渇きを感じにくくなる
  • 水分の必要性が認識できない
  • 腎機能の低下
  • 水分を蓄積する筋肉量の低下
  • 食事量が低下し、食事から摂る水分が不十分になる

高齢者は筋力の低下などで、もともと体内に蓄積できる水分量が低下しています。さらにトイレを気にするなどで水分を控えてしまうと、脱水症状を起こしやすくなります。

日中に活動することで体内の水分が徐々に排出され、十分な水分補給を行っていないと、結果として夕暮れ症候群という症状が現れるのです。

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症状の例を振り返る

上記症状の例①~③はすべて脱水の影響で認知機能が低下したと考えられ、水分を摂ることで改善がみられました。

症状の例①経口補水ゼリーの活用

Aさんは認知機能の低下から、今いる場所が自分の家だと認識できなくなりました。外を見ると薄暗くなっているので、家に帰らなければと思い、「帰る」と言って家から出ていこうとしました。

夫はこの症状が出ると経口補水ゼリーをAさんに飲ませていました。体内への吸収が良い水分を補給することでAさんは落ち着きを取り戻し、穏やかになるそうです。

Memo

経口補水液と経口補水ゼリーは、脱水症状時に失われた水分と電解質を補給するためのものです。経口補水液は飲む点滴とも言われ、ゼリータイプは飲み込みやすいように工夫されています。ドラッグストアや通販サイトなどで購入できます。

症状の例②麦茶のボトルを置くことで改善

Bさんも同様に認知機能の低下から自分を取り巻く状況を認識できず、混乱状態に陥っていました。不安から「わからなくなった」と言って娘さんに助けを求めるため、探し回ったと考えられます。

脱水が原因かもしれないと介護関係者に言われ、娘さんはキッチンに麦茶を作り置きするようにしました。大きな文字で「夕方までに飲み切ること」とメモを貼ることで、Bさんは娘さんが帰るまでに麦茶を残さず飲むようになり、夕方の混乱状態はなくなりました。

症状の例③水分摂取のスケジュールを決める

Cさんは若いときに、経営していた事業のお金を持ち逃げされた経験があり、常に金銭が気になるようになりました。夕方になるにつれ体内の水分が不足し、認知機能の低下から過去と現在が混同したと考えられます。


介護スタッフは1日の水分摂取スケジュールを決め、夕方にかけて水分不足が起こらないようにしました。その後、夕方になってもお金のことは気にしますが、簡単な受け答えで落ち着くようになりました。

夕暮れ症候群の対処法・予防法

認知症の人が夕方頃から落ち着きがなくなってきたら、水分を「ゆっくり」そして「たっぷり」摂れるようにケアしましょう。市販の経口補水液(ゼリー)などは体内への吸収が良いため、夕暮れ症候群には効果的です。いつでも水分が摂れるように、自宅でストックしておくと安心です。

高齢者が1日に必要とする水分量は1,500ml以上です。起床から就寝までの間に、バランス良く飲み物を摂れるように配分を決めておくと、夕暮れ症候群の予防にもなります。

注意

心不全や腎不全などの持病があり、医師から水分制限の指示が出ている場合は、必ず医師と相談しながら水分をコントロールしてください。

※この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断や治療を推奨するものではありません。個別の健康状態については、必ず医療専門家にご相談ください。

まとめ

夕方になるとぼーっとする、あるいはグッタリとしている場合も、脱水症状の可能性があります。認知症の診断がなくても、でなくても午後になると体調が悪くなるなら、水分補給に意識を向けてみてください。

必要な水分を日々欠かさず摂ることは、認知症の予防(あるいは悪化の防止)にもつながります。こまめに飲み物を摂る習慣を身につけていきましょう。

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