
「また作り話をして…」と疲れを感じたとき、まず疑ってほしいのが水分不足と便秘です。
意外に思いますか?でも、脱水や便秘による身体の不快感が、認知症の混乱をさらに悪化させ、作話を増やすことがあるのです。
対話の工夫より先に、まず身体を整える——この順番を知っているだけで、対応が変わります。14年のケアマネ経験から、身体ケアと対話テクニックをあわせて解説します。
元ケアマネジャー歴14年(支援300件以上、相談1000件以上)。ご家族から「作り話が増えて困っている」と相談を受けたとき、最初に確認するのは水分と排便の記録でした。身体を整えることで落ち着くケースを数多く見てきました。
この記事でわかること
- 認知症の「作り話(作話)」がなぜ起きるのか、その心理と脳のメカニズム
- 「作話」と「嘘」「妄想」の違い
- 対話の前にまず確認すべき身体のサイン(水分・排泄)
- 現場で使える4つの対話テクニックと具体的なセリフ例
- 限界を感じたときに使えるサービス・相談先
「作話(さくわ)」は医療・介護で使う専門用語、「作り話」は同じ意味の日常語です。どちらも記憶の空白を無意識に埋めようとする脳の働きによるもので、事実を知った上で意図的に偽る「嘘」とは根本的に異なります。この違いを頭に置いておくだけで、対応のしかたが大きく変わります。
認知症の作り話(作話)は「悪意」ではなく「混乱」からくる

まず、心に留めておいていただきたい最も重要なことがあります。
認知症の方が話す、事実と異なる内容は、「意図的な嘘」ではなく、多くの場合、本人の記憶や状況の認識が困難になったことにより、自分自身を防御するために無意識にとっている「取り繕いの行動」なのです。
作り話の裏にある2つの心理
- 「分からない」という強い恐怖
単なる物忘れではなく、今、目の前で起きていることの意味(場所、時間、人間関係)が理解できなくなるため、本人は常に深い霧の中にいるような、強い不安と恐怖を感じています。
デイサービスにいても「ここがどこで、何をする場所か」が分からないと、そこは「安心できる居場所」ではなく「見知らぬ怖い場所」に変わります。
- 混乱を埋めるための「意味づけ」
人間は「分からない状況」に耐えられません。そのため、ご本人は今の混乱を何とか説明しようと、無意識に自分なりの理由を作り出します。
不安や混乱から逃れ、自分を納得させるための必死のつじつま合わせ。
これこそが、事実と異なる「作り話(作話)」の正体です。
家族を騙そうとしているのではなく、恐怖から自分を守ろうとしている。この背景を理解することが、苛立ちを受容へと変え、冷静な対応への第一歩となります。
認知症の作話が悪化する前に確認したい「身体のSOS」

認知症の方の不穏な言動や作話が、実は身体の不調から来ているケースは少なくありません。特に見落とされがちなのが、「水分不足」と「便秘」です。
1. 水分不足が混乱を招くメカニズム
認知症の方の不穏な言動や作り話に気づいたら、言葉で返す前にまず一杯の水やお茶を差し出しましょう。十分な水分を摂ることで脳への血流が改善され、混乱や興奮が和らぎやすくなります。
また、飲み物を用意するために席を外す数分間は、介護するご家族にとっても感情を落ち着かせるクールダウンの時間になります。一杯飲み終えて、ひと息ついたタイミングが、本当の意味での対話のスタートです。
ケアマネ目線メモ
軽度の脱水でも、脳への血流はすぐに低下します。血流が落ちると、まず影響を受けるのが「今、何が起きているか」を理解する力や注意力です。状況を正しく捉えられなくなることで不安が強まり、その不安を埋め合わせようとして作り話(作話)につながりやすくなります。水分補給は、単なる喉の渇きの解消ではなく、認知機能そのものへの働きかけでもあるのです。
2. 便秘が不快感を増幅させる
便秘による腹部の不快感や痛みは、認知症の方にとって「原因の分からない強いストレス」となります。この不快感が、イライラや多動、そして「誰かが私の物を盗った」「帰らなくてはならない」といった不安や不穏な言動として表面化することがあります。
ケアマネ目線メモ
排便の状況を記録し、便秘が続いているようであれば解消できるようなケアを優先しましょう。排泄が自立している方は把握が難しいこともありますが、「なんとなく機嫌が悪い」「いつもより不穏が強い」と感じたとき、最後にいつ排便があったかを確認することが対処の糸口になります。身体の不快を取り除くことが、結果的に心の安定につながります。
まずは一杯。対話はその「数分後」から
作り話や不穏な言動に気づいたら、対話の工夫より先に、まずは水分と排泄の状態を確認することから始めましょう。喉の渇きを感じにくい高齢者は、気づかないうちに脱水気味になっていることが多く、便秘による不快感も同じように混乱を強めます。
一杯のお茶や水を差し出しながら、最後の排便がいつだったかを振り返る——この数分間のワンクッションが、本人を落ち着かせ、あなた自身の気持ちを整理する時間にもなります。対話は、そのあとで大丈夫です。
ケアマネ目線メモ
不穏な言動や作り話(作話)が見られたとき、まずは「体調に変化はないか?」と立ち止まってみましょう。対話による心のケアは、身体の不快感が解消されてこそ効果を発揮します。水分の補給や排泄の確認を優先しましょう。
認知症の作話に動じない「3つの心がまえ」

身体的なケアと同時に、心のケアを行うことが重要です。認知症の方との対話において、真実を追及せずに、良好な関係性を維持するための心の持ち方と行動の原則は以下の3点です。
1. 「真実の追及」を目的としない
最も避けるべきは、事実を正して認知症の方に「間違いを認めさせる」ことです。これは、ご本人の尊厳を傷つけ、不安や混乱、そしてあなたへの不信感を募らせるだけです。
- NG対応例:「お母さん、そんなこと言ってないよ。覚えてないの?」
- 心がけ: 今ここで、相手が感じている「気持ち」を受け止めることを最優先にします。
2. 「否定」や「正論」を押し付けない
認知症の方の言葉を否定することは、「あなたの言っていることは間違っている」というメッセージを伝えることになります。これは、ご本人の存在そのものを否定されているかのような感覚を与えかねません。
3. 「感情のコントロール」を意識する
認知症の方の作り話(作話)に感情的に反応してしまうと、それが相手に伝わり、さらに強い混乱や興奮を引き起こします。介護する家族の冷静さが、心理的な摩擦を軽減する鍵になります。
まず深呼吸をして、「これは混乱から自分を守ろうとしている行動なんだ」とご自身に言い聞かせてから、一呼吸置いて対応するようにしましょう。
認知症の作話・嘘に使える4つの対話テクニック【具体例付き】

では、実際にどのようなフレーズやアプローチで対応すれば、衝突を避けられるのでしょうか。
① 否定せず、感情に「共感」する
話の内容の真偽ではなく、その話をしているときの相手の気持ちに焦点を当てて返答します。
| 作り話(作話)の例 | 具体的な対応 | 心理的な効果 |
|---|---|---|
| 「私の鞄を誰かが盗んだ!」(実際は手元にある) | 「あら、大変でしたね。何か大切なものが入っていましたか?不安でしたね。」 | 相手の「不安」という感情を共有し、落ち着きを取り戻す手助けになります。 |
| 「これから子どもが迎えに来るの」(実際は予定なし) | 「お会いできるのが楽しみですね。どんなお話をされるんでしょうか。」 | 「会いたい」という期待や寂しさに寄り添い、否定しないことで信頼感を守ります。 |
② 関心の対象を切り替える
真実の追及を避け、興味の矛先を別の話題や行動に移して、作り話のループから自然に離脱します。
| 作話の例 | 具体的な対応 | 心理的な効果 |
|---|---|---|
| 「もうお昼ご飯は食べた」(実際はまだ) | 「そうでしたか!じゃあ、お口直しに温かいお茶でも飲みませんか?淹れてきますね。」 | 食事への固執から別の行動(お茶)へ誘導し、注意をそらします。 |
| 「私はここの家ではない」(実際は自宅) | 「そうなんですね。ところで、そのお花がとても綺麗ですね。なんていうお花ですか?」 | 混乱した現状認識から、目の前の具体的な(安全な)現実へ目を向けさせます。 |
③ 一度受け止めてから、別の現実へ
- 作り話:「私はここに閉じ込められている」
- NG:「そんなことないでしょう。ここはあなたのお家ですよ」
- 推奨:「それは不安ですね。お茶でも飲みながら、どうすればいいか一緒にゆっくり考えましょう。」
ケアマネ目線メモ
これはコミュニケーション技法でいう「YES-AND」の考え方です。介護の現場でも広く活用されており、否定から入る「YES-BUT」との違いを意識するだけで、対話の雰囲気が大きく変わります。
④ 「回想法」の要素を取り入れる
作話の中に、過去の楽しかった経験や、実現したかった願望が隠れている場合があります。その感情や願いを受け止め、過去の話として展開することで、満足感につながることがあります。
- 作り話:「私は東京に帰らなくてはならない」(実際は東京出身ではない)
- 対応例:「東京には、どんな思い出がありますか?コーヒーでも飲みながら聞かせてください」
ケアマネ目線メモ
回想法は認知症ケアで広く活用されている対話アプローチです。認知症になっても過去の記憶は比較的保たれやすい特性があり、昔の話題を引き出すことで安心感につながりやすくなります。
帰宅願望など「どうしても応えられない」ときの着地点

相手の訴えに対し、一緒に行動することで安心感につながるケースもあります。しかし、すべてに応えようとすると家族側が力尽きてしまいます。「本人の願い」と「家族が応じられる範囲」をどうすり合わせるか、その視点を持ちましょう。
例として、「自宅にいるのに『家に帰る』と訴える(帰宅願望)」場面について考えてみましょう。
- 感情には100%同意する
「ここは自分の家じゃない!」という訴えには、「そうですよね、住み慣れたお家が一番ですよね」と、今の場所が落ち着かない不安な気持ちを否定せず受け止めます。
- 「行動」は可能な範囲で付き合う
玄関先まで一緒に歩いて外の空気を吸うだけで、本人の気が済んで落ち着くこともあります。
- 「超えられない一線」は代替案で守る
外出が危険、あるいは応じられない場合は、「暗いのでお茶を飲んで明るくなるのを待ちませんか?」と、安全な室内での行動(水分補給など)へ誘導します。
ケアマネ目線メモ
夜間の対応が限界に近いと感じたら、一人で抱え込まずサービスを組み合わせるタイミングです。ショートステイで介護者が休息を取る、小規模多機能型居宅介護で通い・泊まり・訪問を柔軟に使い分けるなど、担当のケアマネジャーに早めに相談してみてください。
よくある質問
同じ意味です。「作話(さくわ)」は医療・介護の専門用語で、「作り話」は日常語での表現です。どちらも、記憶の空白を無意識に埋めようとする脳の働きによるもので、意図的な嘘とは異なります。
否定すると本人の不安や混乱が強まり、作話がエスカレートするリスクがあります。「あなたの言っていることは間違い」というメッセージとして伝わるためです。内容の真偽より、そのときの感情に寄り添うことが大切です。
痛みの訴えは作り話とは区別して考える必要があります。認知症の方は痛みを言葉で正確に伝えることが難しく、不快感が不穏な言動や作話として表れることがあります。便秘や脱水など身体の不調が隠れていないか、まず確認しましょう。
水分不足・便秘・睡眠不足など身体的な不調があるとき、また夕方から夜にかけて(夕暮れ症候群)に悪化しやすい傾向があります。作話が増えたと感じたら、まず体調の変化を確認することが対処の第一歩です。
一人で抱え込まず、担当のケアマネジャーに早めに相談してください。ショートステイや小規模多機能型居宅介護など、ご家族の負担を減らすサービスを組み合わせることができます。限界を感じる前に相談することが、長く介護を続けるコツです。
まとめ:自分自身を労ることも忘れないで
認知症の方の作り話(作話)への対応は、根気と優しさが求められ、精神的な負担が大きいものです。
大切なのは、完璧な対応を目指さないことです。時にはイライラしたり、疲れてしまったりしても、それはごく自然なことです。
対応に困ったときは、
- 1. 身体的な不調(水分・排泄)をまずチェックする
- 作り話の内容を否定しない
- 感情(不安・寂しさ)に共感する
- 関心を別の話題や行動に切り替える
この4点を思い出し、まずはあなた自身が深呼吸をして、心のゆとりを保つことを最優先にしてください。




